3Dコロプレス・マップ(3D Choropleth Map)は、地理的な区画ごとに統計値を色で示す「コロプレス・マップ(Choropleth Map)」を三次元的に拡張した可視化手法です。
各地域の値を「高さ(立体のプリズム)」として表現し、色と高さの両方で変数の大小を表します。地表から突き出たような立体構造が特徴で、人口密度や所得水準などを直感的に把握できる利点があります。
Mapboxやdeck.gl、ArcGISなどのGISプラットフォームでは、この3Dコロプレス表現がよく利用されます。 都市の「盛り上がり」を見るような表現が得られ、視覚的なインパクトが強い反面、誤読や視点依存性にも注意が必要です。
チャートの見方
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色(Color)
各ポリゴン(地域単位)は、統計値の大きさに応じてカラースケールで塗り分けられます。
たとえば、明るい色は低い値、濃い色は高い値を示すことが多いです。 -
高さ(Height / Extrusion)
各地域の高さは、対象変数(人口、所得、比率など)の値に比例します。
高さが高いほど値が大きいことを意味します。これにより、平面マップよりも直感的な「地形的印象」でデータを把握できます。 -
視点操作(Viewpoint / Camera)
視点を傾けることで高さの違いをより明確に確認できますが、視点の角度や距離によって見え方が変化します。
特に高いプリズムが後方の領域を隠す「オクルージョン(遮蔽)」には注意が必要です。
背景と利点
- 直感的な理解:高さを用いることで、値の大小を視覚的に直感的に理解できる。
- 空間的傾向の把握:隣接地域の値の変化を「地形的な勾配」として認識できる。
- 視覚的訴求力:プレゼンテーションやデータストーリーテリングで印象的な表現となる。
一方で、遠近歪み・視点依存性・過剰装飾による誤読といったリスクも指摘されています。
実務上は、インタラクティブな操作性(回転・ズーム)を付加して、ユーザーが自由に視点を調整できるようにすることが望まれます。
代表的なツール・実装例
ツール/ライブラリ | 機能概要 | 公式ドキュメント |
---|---|---|
Mapbox GL JS | fill-extrusion レイヤで地域ポリゴンを高さ付きで描画 |
Mapbox GL JS: Extrusions |
deck.gl | GeoJsonLayer のextruded: true 設定で3Dプリズム表示 |
deck.gl GeoJsonLayer |
ArcGIS Scene Viewer | 3D空間上でコロプレスを立体表示可能 | Esri ArcGIS Scene Viewer |
Kepler.gl | 3Dヒートマップ/コロプレス対応のオープンソースツール | Kepler.gl Official Site |
関連研究・批判的視点
- Wheeler (2012) は、3Dコロプレス・マップの「効果的な使い方」と「誤解を招く使い方」を実例とともに比較し 誤読のリスクが高い と指摘しています。
- arXiv (2020) の研究では、3D表現は視覚的な魅力を高める一方で 定量比較の正確性を損ねる傾向 があると報告されています。
- また、VR環境での3Dコロプレス(“Prism Map”)操作に関する研究も進んでおり 2Dと3Dを補完的に用いる設計 が有効とされています。
まとめ
3Dコロプレス・マップは、地理的な統計値を立体的に表現することで、空間的な傾向や分布を印象的に伝える手法です。しかし、データの正確な比較・判断を重視する分析用途よりも 説明・プレゼンテーション・探索的分析 の文脈で使うことが望ましい可視化形式といえます。効果的な利用には、色・高さ・視点のバランス設計が重要です。
参考・出典
- Wikipedia: Choropleth map
- Andrew P. Wheeler: Example (good and bad) uses of 3D choropleth maps
- arXiv: An Evaluation of Visualization Methods for Population Statistics Based on Choropleth Maps (2020)
- arXiv: Tilt Map – Interactive Transitions Between Choropleth Map, Prism Map and Bar Chart in Immersive Environments (2020)