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隣接行列

隣接行列(adjacency matrix)は、ネットワーク(グラフ)構造を数値の表形式で表現する方法です。頂点(ノード)同士の接続関係を、行と列で示します。可視化の基本的な構造であり、ネットワーク理論・社会ネットワーク分析・グラフアルゴリズムなどの分野で広く用いられています。

Les Misérables Co-occurrence

図解の見方

隣接行列では、縦軸と横軸にすべてのノード(頂点)を並べ、交差点のセル(マス目)に「接続があるかどうか」を記します。

行・列意味セルの値の意味備考
行(縦)出発ノード(From)1(または◯):接続あり
0(または空白):接続なし
有向グラフでは「出発点」を示す
列(横)到達ノード(To)1(または◯):接続あり
0(または空白):接続なし
無向グラフでは行列が対称になる
対角成分自己ループ1の場合:ノードが自分自身へ接続多くのネットワークでは0

例えば、3つのノード A, B, C のネットワークで
A→B、B→C、C→A という接続がある場合の隣接行列は次の通りです。

ABC
A010
B001
C100

このように、行列の1つ1つのセルがエッジ(辺)を表すため、リンクの有無を簡潔に比較できます。

背景と特徴

  • 発展の背景
    隣接行列は、グラフ理論の基礎的な表現方法として、コンピュータサイエンスや社会ネットワーク分析で早くから採用されてきました。特に、ノード数が少ない場合や、行列演算を通して連結性を計算する場合に適しています。

  • 長所

    • 行列演算が使えるため、ネットワークの 連結成分・経路探索・中心性計算 に有効。
    • 形式が単純で プログラム実装や保存 に適する。
  • 短所

    • ノード数が増えると、要素数が急増(O(n²))し、疎なネットワークでは 非効率
    • 視覚的な理解が難しく、大規模ネットワークでは 密集したパターン(hairball) になりやすい。

可視化上の応用

隣接行列は ネットワーク可視化の「行列型レイアウト」 として利用されます。
ノードを円や線で描く「ノードリンク図」に比べ、リンクの重なりがなく 構造的な規則性(クラスター、対称性、自己ループなど) を視覚的に発見しやすい特徴があります。

可視化形式特徴適用例
ノードリンク図直感的・空間的関係を表現小規模ネットワーク
隣接行列構造・関係パターンを強調大規模・密集ネットワーク、社会ネットワーク

関連する発展形

  • ソート済み隣接行列(Sorted Adjacency Matrix):ノードを特定の属性(例:コミュニティ、次数、モジュール)で並べ替え、構造的パターンを強調。
  • 相関行列との比較:隣接行列が「接続の有無(binary)」を表すのに対し、相関行列は「関係の強さ(continuous)」を示す。
  • BioFabric・Hive Plotなど:隣接行列の欠点を克服し、構造を線形・規則的に描く手法として発展している。

まとめ

隣接行列は ネットワークを数値的・構造的に理解するための基本フォーマット であり、可視化においても「構造の秩序を読む」ことを重視する設計思想に通じています。ノード間の関係を抽象的に捉える練習として、インフォグラフィックス教育でも有効な素材となります。

参考・出典

Licensed under CC BY-NC-SA 4.0
Oct 22, 2025 22:33 +0900