Beyond XX and XY(ビヨンド XX アンド XY)は、Scientific American 2017年9月号の見開きに載った図です。性を1本の線の上の点ではなく、受精から思春期以降までの発達の経路として描いています。作者の Amanda Montañez(アマンダ・モンタニェス)は、はじめ頻度をデータで示す図を考えていました。確かな頻度のデータが得られなかったため、数値を示す図から、複雑さそのものを見せる図に方針を変えて作りました。
以下は、誌面の図(pp.50–51)と、Montañez の制作解説「Visualizing Sex as a Spectrum」(2017年8月29日)に沿います。デザインを担当した Pitch Interactive の作品ページと、2018年1月号の読者投稿欄も使います。医学と性の多様性に関わる図なので、図の文、作者の言葉、批判を、誰の言葉か分かる形で分けて書きます。
2017年、数を示すはずだった図
2017年9月号は、性とジェンダーの特集号でした。この図は50ページからの見開きです。Montañez は同誌のグラフィックス・エディターで、医学イラストレーターの経歴があります。制作解説によると、最初の構想はこうでした。
“The project was originally conceived as a data-driven graphic exploring the spectra of sex and gender.”
性とジェンダーの幅を、データで探る図にするつもりだった、という話です。トランスジェンダーやノンバイナリーの人の頻度、インターセックスの人の割合、DSD(disorders of sex development)の種類ごとの内訳を示せるかを考えていました。
調べたのは、リサーチャーの Amanda Hobbs(アマンダ・ホッブズ)です。返ってきたのは、答えより「a series of new questions」でした。Montañez は理由を二つ挙げます。調査がトランスジェンダーを、ゲイ・レズビアン・バイセクシュアルとひとまとめにしがちなこと。DSD は機関ごとに定義が違い、見つからないことも、後で分かることもあることです。
“The project abruptly transformed into an exercise in visualizing complexity.”
計画は、複雑さを見せる練習に一気に変わった、という一文です。Montañez は続けて、性・ジェンダー・セクシュアリティはそれぞれ別のスペクトラムで、性は1次元の尺度では描けないと書き、図の主眼をインターセックスに移しました。
数が定まらないことは、資料どうしの数字の違いにも表れています。
| 出典 | インターセックスの割合 | 前提・根拠 |
|---|---|---|
| Montañez の制作解説(2017) | 約1%(about one percent) | DSD を広く定義した場合 |
| 『Data Feminism』(2020) | 推定1.7% | 注55で Fausto-Sterling を出典とする |
| Jerry Coyne のブログ(2022) | 約0.018%(5,600人に1人) | Sax(2002)による |
完成した図の本文には、割合の数字は出てきません。
手描きのアウトラインから見開きへ
Montañez はまず内容を紙に描きました。知られている DSD を全部並べると、見開き1つには収まらない(「unwieldy」)と分かり、いくつかの状態を選んで、発達の道筋を描く「visual outline」を作りました。きれいではないが、題材が求める入り組んだ感じはとらえていた、と本人は書いています。

Amanda Montañez/Scientific American「Visualizing Sex as a Spectrum」より引用(© Scientific American)
このアウトラインの正確さを、Oklahoma 大学の DSD の専門家、Amy Wisniewski(エイミー・ウィズニュースキー)が確かめました。綴りは図のクレジットに従います。制作解説の本文では「Winsiewski」です。デザインは、Oakland のデータ可視化スタジオ Pitch Interactive(ピッチ・インタラクティブ)が担いました。

Pitch Interactive/Scientific American「Visualizing Sex as a Spectrum」より引用(© Scientific American)
見た目が決まった後も、同僚から分かりにくい箇所を指摘してもらい、文とデザインを直し続けたといいます。制作解説の3枚を見比べると、次の違いがあります。
| 項目 | アウトライン | Pitch のスケッチ | 完成した誌面 |
|---|---|---|---|
| 縦の段 | 受精・出生・思春期・成人 | 受精・出生・思春期 | 受精・出生・思春期 |
| 中央の帯の見出し | DSD examples | DSD examples | Intersex conditions |
| 性を決める要因 | 冒頭の文の中 | 冒頭の文の中 | 左端に列として立てる |
| 5-alpha reductase deficiency | 他と同じ扱い | 他と同じ扱い | 点線の枠と円の説明で強調 |
| ジェンダーの定義 | 図の下 | 図の下 | 図の上 |
見出しの語は「DSD」から「intersex」に替わりました。替えた理由は、制作解説には書かれていません。
完成した図は、何をどこに置いたか
完成した図は、数量のデータを図にしたものではありません。性分化に関わる要因と、いくつかの DSD がたどる道筋を図解した、概念図・フローチャートです。

Pitch Interactive and Amanda Montañez(Research: Amanda Hobbs、Expert review: Amy Wisniewski)/Scientific American 2017年9月号より引用(© 2017 Scientific American)
| 図の要素 | 表しているもの | 根拠 |
|---|---|---|
| 縦方向 | 発達の時間。CONCEPTION・BIRTH・PUBERTY の3段 | 誌面、Pitch(three pivotal milestones) |
| 左端の列 | 性を決める要因。染色体・遺伝子・ホルモン・内外の性器・二次性徴 | 誌面 |
| 横方向の帯 | 両端が Typical biological female と male。間に状態の名前。目盛りはない | 誌面、Pitch |
| 帯の色の変化 | 性のスペクトラム | 『Data Feminism』 |
| 説明の箱 | 各段での状態。箱の左端の線は、左の列の要因に対応すると読めます | 誌面 |
| 分岐する矢印 | 各状態がたどる経路 | 誌面、『Data Feminism』 |
| 医療介入の箱 | 手術やホルモン療法。例「Genitals can be modified to look more typically female」 | 誌面 |
| 点線の枠と右上の円 | 5-alpha reductase deficiency を一つの例として通して見せる | 誌面 |
右上の円によると、5-alpha reductase deficiency の人は 46XY で、出生時の外見は人によって違い、どちらの性にも割り当てられえます。思春期にテストステロンが増えて男性的な特徴が出て、女の子として育った人が男性と自認するようになることが多い、と円は書いています。一つの状態を段ごとに追わせることで、1点では描けない変化を見せていると読めます。
図の文、作者の文、制作会社の文
この図には、言葉の出どころが三つあります。強さの違う言い方が並んでいるので、分けて示します。
| 誰の言葉か | どこで | 言っていること |
|---|---|---|
| 図の本文(Montañez の署名入り) | 誌面 | 示したのは「A small cross section」。性とジェンダーは「appear to exist on a spectrum」 |
| Pitch Interactive | 作品ページ | 「sex assignment and gender identity lies on a spectrum」 |
| Montañez | 制作解説 | DSD は性とジェンダーの固定的な割り当てを退ける「evidence-based argument」だ。理解が広がれば政策が「social justice」にも沿う |
| Montañez | BBMRI-ERIC ウェビナー告知(2022) | 可視化された例を見たことのない題材で、想像以上に複雑だった |
図の本文は「appear to」と控えめに言い、一部の断面だと断っています。Pitch は「lies on」と言い切ります。社会や政策への主張は制作解説の側にあり、そこには作者個人の見解だという但し書きが付いています。後で見る批判も、この三つのどれに向けたものかが違うと読めます。
第三者はこの図をどう見たか
評価は、それぞれ別の点に向いています。書籍を除き、どれも投書・ブログ・SNS の投稿で、査読のある論文ではありません。
一つ目は、『Data Feminism』(Catherine D’Ignazio〈キャサリン・ディグナツィオ〉と Lauren F. Klein〈ローレン・クライン〉、2020)第4章です。同書はこの図の直前に、二値のデータを内側から組み替える例として、The Telegraph の「Born Equal. Treated Unequally.」と Guardian の作品を挙げています。そのうえで、ジェンダーそのものをどう描くかという問いとして、この図を取り上げます。
“Visualization is often thought of as a way to reduce complexity, but here it operates in the reverse” (p.115)
可視化はふつう複雑さを減らすものとされるが、この図は逆に働いている、という評価です。科学者がすでに知っていたことを、広く見えるものにしたとも書いています。
二つ目は、当事者支援団体 interACT の事務局長、Kimberly Zieselman(キンバリー・ジーセルマン)の投書です(2018年1月号)。図がインターセックスの可視性に役立つと認めたうえで、こう書きました。
“There is just one thing we wish it had shown intersex is not: in need of ‘fixing.’”
インターセックスは「直す」ものではないと示してほしかった、という指摘です。図は手術で性器を変え、性腺を取れる箇所を示すが、瘢痕・慢性の痛み・不妊などの結果に触れていない。子を男の子・女の子として育てるのに手術は要らない、とも書いています。
Montañez は同じ欄で、図の範囲は科学としてのスペクトラムで、健康への影響は扱えなかったと答えました。手術を入れたのは、実際に多くの人が受けているからだとしています。なお、制作解説で Montañez は、乳児への医学的に不要な手術をやめるよう求める声を、望ましい変化の一例に挙げています。
三つ目は、2022年の「性は二値」とする立場からの批判です。11月14日、物理学者 Sean Carroll(ショーン・キャロル)が、Colin Wright(コリン・ライト)の「Biological sex is real, immutable, and binary.」という投稿に、この図を添えて「Actual science would like a word.」と返したことがきっかけです。
Jerry Coyne(ジェリー・コイン)は、図が示すのは性に関わる形質の経路の複雑さで、配偶子は描かれていない、と書きました。Emma Hilton(エマ・ヒルトン)は、明確な男性の状態を、女性の状態より「more female」の側に置くのはなぜか、と問いました。その前の8月には、Zach Elliott(ザック・エリオット)が SNS でこう書いていました。
“There are no units on this spectrum to quantify it.”
スペクトラムに単位がない、という指摘です。Elliott は、各状態の位置を決める客観的な方法がないこと、性決定の仕組みと性そのものの混同も挙げています。
| 批判した側 | 向けた先 | 論点 | 作者の返答 |
|---|---|---|---|
| interACT(2018) | 医療介入の箱 | 手術の結果を示していない。養育に手術は要らない | 範囲外だった。多くの人が受けているので入れた |
| 「性は二値」の立場(2022) | 横の帯と周りの文 | Elliott:単位も配置の客観的な根拠もない。仕組みと性を混同している。Hilton:状態の左右の配置。Coyne:配偶子が描かれていない。政策と科学の向きが逆 | 本記事の出典には見当たらない |
前者は描いた介入の扱いを問うています。後者のうち Elliott と Hilton は、横の帯という軸の意味を問うています。Coyne は、図が何を描いていないかと、制作解説の主張を問うています。
使い道
可視化の仕事に持ち帰れる判断は、四つあります。
一つ目は、データが得られないことを、図の方針を変える材料にすることです。Montañez は頻度の図を諦めて経路の図に切り替え、本文で「A small cross section」と範囲を断りました。数を出せないとき、代わりに何を見せるのかを図の中で言うことが要ると読めます。
二つ目は、量に見える軸を概念図に使うときの扱いです。横の帯に目盛りはありませんが、両端に「Typical」と書かれ、状態が左右に並びます。Elliott の単位の指摘や Hilton の配置の問いは、量に見える軸に根拠が示されていない点に向いていると読めます。順序のある軸を置くなら、位置が何を意味しないかまで書く必要があると読めます。
三つ目は、描いた要素が、描かなかったことへの問いを生むことです。医療介入の箱を置いたことで、その結果が描かれていないという指摘が出ました。範囲の線引きを図の近くに書くかどうかも、設計の一部と読めます。
四つ目は、語の選択も図の一部だということです。帯の見出しは「DSD examples」から「Intersex conditions」に替わりました。教育者向けサイト Gender-Inclusive Biology(2021)は、さらに「intersex traits」を勧めています。ラベルの一語で読まれ方が変わりうると読めます。
同誌は2024年12月号で、指標の数値を図にしたジェンダー平等への進展の可視化も載せています。数で示した図と、数で示せなかった図として並べて読めます。
参考・出典
一次情報
- Amanda Montañez, “Beyond XX and XY: The Extraordinary Complexity of Sex Determination,” Scientific American 317(3), September 2017, p.50. doi:10.1038/scientificamerican0917-50. 記事
- Amanda Montañez, “Visualizing Sex as a Spectrum,” SA Visual(Scientific American Blog Network), 2017-08-29. ブログ
- Scientific American 2017年9月号の目次. 目次
- Pitch Interactive, “Beyond XX and XY.” 作品ページ
- “Readers Respond to the September 2017 Issue”(Kimberly Zieselman の投書と Montañez の返答), Scientific American 318(1), January 2018, p.5. 記事
- BBMRI-ERIC, “Visualizing the Complexity of Sex Determination”(ウェビナー告知、2022-11-16). iCal / 日付ページ
- BBMRI-ERIC Podcast のエピソード(ウェビナーの録音、音声). エピソード
第三者評価
- Catherine D’Ignazio and Lauren F. Klein, Data Feminism, MIT Press, 2020, ch.4 “What Gets Counted Counts,” pp.113–117, notes 52–55(CC BY-NC-ND 4.0). Internet Archive / OCR テキスト
- Kimberly Zieselman(interACT: Advocates for Intersex Youth)の投書、上記 Letters. 記事
- Sam Long, “Scientific American: “Beyond XX and XY”,” Gender-Inclusive Biology, 2021-02-25. 記事
- Jerry Coyne, “Stephen Knight on Sean Carroll, Colin Wright, and the binary of sex,” Why Evolution Is True, 2022-11-16(Sean Carroll と Emma Hilton の投稿を引用). 記事
- Jerry Coyne, “Once again, the binary nature of biological sex: Colin Wright and Sean Carroll,” Why Evolution Is True, 2022-12-06. 記事
- Zach Elliott(@zaelefty)のスレッド, 2022年8月. Thread Reader
- Sean Carroll の投稿(2022-11-14). X / Emma Hilton の投稿(2022-11-14). X




