本文へ移動
Visualizing.JP

週でも月でもなく、血液検査の日で区切る──Giorgia Lupi と Kaki King『Bruises』

Kaki King の娘の病気の120日分の記録を、血液検査の日で区切った1本の時間軸に並べ、検査値と母親の希望・恐れを同じ1日の上に重ねた作品で、同じ記録をもとに King が曲を作りました。

目次
  1. 012017年8月、医師の指示から記録が始まる
  2. 02週でも月でもなく、検査の日で区切る
  3. 03検査値と希望・恐れを、同じ1日に重ねる
  4. 04同じ記録から、1日1小節の曲を作る
  5. 05第三者はこの作品をどう見たか
  6. 06使い道
  7. 07参考・出典

『Bruises — The Data We Don’t See』は、Kaki King(カーキ・キング)の娘の病気の120日分の記録を、1本の時間軸に並べた作品です。白い形1つが1日で、血液検査のたびに新しい日のまとまりが始まります。検査で出た血小板数と、母親の King が1〜10で付けた希望と恐れは、同じ1日の上に重ねてあります。同じ記録をもとに、King が3/4拍子・120小節の曲を作りました。1日が1小節です。

絵は Giorgia Lupi(ジョルジア・ルピ)、曲とギターは King で、2018年1月に初演されました。以下は、Lupi の公式サイトの作品ページとそこに載る完全な凡例、Pentagram の作品ページに沿います。Lupi の作品は、国を2つの量の軸に置いた頭脳流出の可視化と、遠近で読む壁紙『The Room of Change』の記事でも読みました。ここでは、時間の区切り方と、絵と音の単位を読みます。子どもの名前は書かず「娘」とし、作者が公開した作品の画像だけを載せます。

Giorgia Lupi and Kaki King/Giorgia Lupi 公式サイト「BRUISES - The Data We Don’t See」より引用

2017年8月、医師の指示から記録が始まる

2017年8月の初め、King は3歳近い娘の口に血を見つけました。舌には10セント硬貨ほどの病変がありました。救急で血液検査を受け、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)と診断されます。体が自分の血小板を攻撃する自己免疫の病気で、あざと点状出血(petechiae)が全身に出ます。

記録のきっかけは医師の指示でした。King の言葉です(Pentagram の作品ページ。角括弧は同ページのまま)。

“The doctor’s directive to us was to watch her skin for any significant changes. … I began to write down what I was seeing on [my daughter’s] skin, what activities we did that day, what treatments she had, and what her readings were, as well as how I was feeling”

肌の変化を見ているように言われ、肌の様子、出来事、治療、検査値、自分の気持ちを書き留め始めた、という話です。個人のデータ収集は、Lupi との仕事で覚えたと話しています。

2人はこの前に、Hennessy のブランド・アイデンティティと、2017年初めの「A Dialogue Between Four Hands」で組んでいます。後者では、曲と絵の両方に2人の個人データを使いました。

AIGA Eye on Design によれば、King は記録をスプレッドシートに入れ、Lupi はその120日分のデータの種類ごとに見た目を割り当てました。Lupi は、記録を読んで感じた問いをこう書いています。データの可視化は、認知だけでなく感情に働きかけられるか。

週でも月でもなく、検査の日で区切る

Lupi は時間軸の組み方をこう書いています。

“I structured a fluid timeline, where each one of the white elements indicates a new day.”

白い要素1つが1日、という説明です。日は、血液検査のための通院と通院のあいだでまとまりになります。Lupi は「a new group of days starts when a lab test was performed」と書きました。

Giorgia Lupi and Kaki King/Giorgia Lupi 公式サイト「BRUISES - The Data We Don’t See」より引用

検査の結果の血小板数は、まとまりの先頭の赤い点で表します。正常値は150〜400で、記録の初めには1、7、30が並びます。作品の完全な凡例には「1 dot = 1 platelet」とあり、点の数が値を表します。

この区切り方では、まとまりの大きさが次の検査までの日数になり、長さはそろいません。King は、娘の血小板数が生活を支配していた、と振り返っています。家族にとっての時間の単位は、週ではなく「次の検査まで」だったと読めます。

時間軸を、Lupi は「fluid timeline」、Pentagram は「non-linear timeline」と呼んでいます。

検査値と希望・恐れを、同じ1日に重ねる

1日の白い形の上に、種類の違うデータが層で重なります。Lupi の説明と完全な凡例による対応は、次のとおりです。曲の列には、作者が対応を明かした単位だけを書きました。

データ(記録は King)絵での表し方曲での表し方
1日白い形1つ(凡例では「petal」)3/4拍子の1小節
検査の日新しいまとまりの始まり―
血小板数(臨床値)まとまりの先頭の赤い点―
あざの程度(目視)紫と緑のにじみ。大きく濃いほど広く深い―
点状出血の量(目視)小さなピンクの点の密度―
ステロイドの服用灰色の筆跡―
肌を悪くした出来事色鉛筆の線―
King が家を離れた日黒い点―
良かった時間明るい黄色の斑点―
King の希望と恐れ(1〜10)日を囲んで浮かぶ線―
King の毎日のメモ周りに手書きし、決定的な語を強調―

Giorgia Lupi and Kaki King/Giorgia Lupi 公式サイト「BRUISES - The Data We Don’t See」より引用

完全な凡例は、暗い線が恐れ、オレンジの線が希望だと説明しています。

Giorgia Lupi and Kaki King/Giorgia Lupi 公式サイト「BRUISES - The Data We Don’t See」より引用

血小板数はまとまりの先頭に1回だけ置かれ、肌と気持ちは毎日描かれます。頻度の違う臨床値と自己評価を、「1日」という同じ単位に並べた設計と読めます。Lupi は「this isn’t by any means a scientific representation of data」と、科学的な表現ではないことを自分で断っています。

記録した本人には、この重ね方が振り返りの道具になりました。King は Eye on Design にこう話しています。

“I could look back at a week and go, ‘oh, she had a lot of bruises,’ … Or I’d see that things have gotten better, but I’m still falling apart.”

1週間を振り返ると、あざの多さや、状態は良いのに自分は崩れていることが分かった、という話です。娘の肌の様子と自分の気持ちが同じ日に載るから、両者のずれが見えたと読めます。

同じ記録から、1日1小節の曲を作る

絵は作品の半分で、残りの半分が曲です。King はこう説明しています。

“The song has 120 measures in 3/4 time, covering the 120 days that I collected data. There are elements that you will hear that reference the amount of petechiae on her skin, my changing mood… And the main guitar part is a musical map of the bruises on her skin”

曲は3/4拍子の120小節で、記録した120日に対応する。点状出血の量や気分を参照する要素があり、メインのギターはあざの音楽の地図だ、という説明です。

確かめられる対応は、1日が1小節であることだけです。点状出血や気分は「reference」(参照する)、あざは「map」と言われていますが、音の高さや音量への割り当ては書かれていません。作者側は「Kaki composed a song based on her data collection」と書き、King は本作を「this visualization and musicalization」と呼びました。調べた資料に、sonification(ソニフィケーション)の語はありません。

TwoTone は、表の1列を音階の段に割り当て、1行を1拍として鳴らします。Bruises で確かめられる対応は時間の単位だけで、小節の中身は作曲家の判断に任せた曲と読めます。データから作った作曲であって、規則で再現できるソニフィケーションではない、と読むのが正確でしょう。

初演は2018年1月25日、サンフランシスコの STIR Experience Lab で、King が会場で生演奏しました。1月27日には、Lupi の YouTube チャンネルに全編の動画が公開されます。アニメーションは Andrea Bax Bassan(アンドレア・バックス・バッサン)です。本作はその後、Cooper Hewitt のデザイン・トリエンナーレ「Nature」に出品され、King の舞台作品『DATA NOT FOUND』(2019年)にも組み込まれました。

第三者はこの作品をどう見たか

詳しく論じた一つが、Catherine D’Ignazio(キャサリン・ディグナツィオ)と Lauren F. Klein(ローレン・クライン)の『Data Feminism』(MIT Press、2020)です。第7章「Show Your Work」の pp.195–199 で、ケア労働と感情労働を見えるようにする事例として扱っています。

“She employed a fluid timeline to reflect the subjective nature of what disability studies scholars call crip time.”

Lupi は流れる時間軸で、障害学でいう crip time(クリップ・タイム)の主観性を映した、という読みです。同書は、放射状の時間軸やガントチャートを使う Atlas of Caregiving と対比しています。そして日は「segmented not by weeks or years but by hospital visits」だと書きました。検査の日の区切りを、障害学の時間論につないだ読みです。

一方で、同書の色の説明は、作者の凡例と食い違います。資料ごとに並べます(Pentagram の説明は Lupi の作品ページと同じです)。

Giorgia Lupi and Kaki King/Giorgia Lupi 公式サイト「BRUISES - The Data We Don’t See」より引用

点Lupi の作品ページ作品の完全な凡例Eye on Design『Data Feminism』
1日の形「white elements」(Pentagram は「petal-like」)「petal」「flower petal」「white aspen-shaped leaves」(ポプラの葉の形)
黒黒い点=King が家を離れた日黒い点=ツアーで家を離れた日黒い点=ツアーで不在「black corresponding to stress and fear」
黄黄色の斑点=良かった時間黄色い形=誕生会などの良い時間「Yellow indicates a good day」「yellow to signify hope」
希望と恐れ浮かぶ線、1〜10暗い線=恐れ、オレンジの線=希望線が多いほど感情が強い手描きの線、1〜10
あざの色紫と緑「purple/yellow」色が鮮やかなほど強い色で強さを模す(色名なし)

希望と恐れを1〜10の線で表す点は一致し、食い違うのは黒と黄の意味です。完全な凡例では、黄色は良い時間とあざのにじみの両方に出てきます。符号が多く、黄色が二つの意味を持つことが、紹介する側の読みを分けやすくしたとも読めます。

AIGA Eye on Design の Liz Stinson(リズ・スティンソン)は、読みにくさそのものを論点にしました。凡例がなければほとんど読めない(「virtually unreadable」)。それでも King には、娘の健康と自分への影響を確かめる略記になった。医師や看護師を通した情報では得にくい主体性を与えた、という評価です。

イタリアの Frizzi Frizzi は、データを数から物語の道具へ変えた例として短く紹介しました。

使い道

可視化の仕事に持ち帰れる判断は、四つあります。

一つ目は、時間の区切りを出来事で決めることです。Bruises は、週や月ではなく検査の日で日をまとめました。治療や手続きの節目が暮らしを決めている記録なら、節目で区切るほうが当事者の時間に近い図になると読めます。

二つ目は、頻度と種類の違うデータを、同じ単位に載せることです。検査値は数日おき、気持ちは毎日でした。King は振り返りで、あざの多さと自分の状態のずれに気づいたと話しています。検査値と気持ちを同じ「1日」に載せる設計が、それを助けたと読めます。別々のグラフに分ける前に、共通の単位で重ねられないかを考える価値があります。

三つ目は、音にするとき、規則と作曲を言い分けることです。Bruises で確かめられる対応は、1日=1小節だけで、作者は musicalization と呼んでいます。どこまでが規則で、どこからが作り手の判断かを書いておけば、聴き手は読み違えずに済みます。

四つ目は、凡例を作品と一緒に出し、紹介する側は凡例に戻って確かめることです。Lupi は完全な凡例を公開しましたが、二次文献では黒と黄の意味が変わりました。作者は本作を、何をデータと呼ぶかを考え直す試みだと書いています。

“radical experimentations of this kind, artistic experimentation of this kind, can be a starting point to reconsider what we define as data in the first place.”

こうした急進的な試みが、データの定義を考え直す出発点になる、という主張です。その試みを他人が引き継ぐときの足場は、作者が公開した凡例だと読めます。

参考・出典

一次情報

  • Giorgia Lupi, “BRUISES - The Data We Don’t See,” 公式サイト(作品の完全な凡例を含む). 作品ページ / 凡例の高解像度版(Dropbox)
  • Giorgia Lupi, “Bruises — The Data We Don’t See,” Medium, 2018-01-31(日付は『Data Feminism』注61による。本文は未確認). 記事
  • Giorgia Lupi and Kaki King, “Bruises - The Data We Don’t See,” YouTube(Giorgia Lupi のチャンネル), 2018-01-27. 動画
  • “Bruises: The Data We Don’t See | Kaki King & Giorgia Lupi,” Talks at Google, YouTube, 2018-07-16. 動画 / 概要欄の転載(Travelin’ Librarian)
  • Pentagram, “Bruises: The Data We Don’t See.” 作品ページ
  • Krannert Center for the Performing Arts, Kaki King: DATA NOT FOUND 公演プログラム, 2019-09-06. PDF
  • Cooper Hewitt, Smithsonian Design Museum, 所蔵記録(本文は未確認). 所蔵記録
  • Kantar Information is Beautiful Awards 2018, “Bruises – The Data We Don’t See.” ショーケース

第三者評価

  • Catherine D’Ignazio and Lauren F. Klein, Data Feminism, MIT Press, 2020, Chapter 7 “Show Your Work,” pp.195–199, Figure 7.9, notes 61–64. オープンアクセス版(Internet Archive)
  • Liz Stinson, “How Kaki King and Giorgia Lupi Used Data to Make Sense of a Child’s Illness,” AIGA Eye on Design, 2018-02-01. 記事
  • “Visualizzare (poeticamente) una malattia autoimmune,” Frizzi Frizzi, 2018-02-01. 記事
矢崎裕一 データ可視化の実務家
プロフィール

この記事は CC BY-NC-SA 4.0 で公開しています。