カルトグラム(Cartogram)は、地理的な地図上で各地域の形状や面積を、人口やGDPなどの統計量に比例させて変形した地図です。地理的位置関係を保ちながら、数値の大きさを視覚的に表現することで、地理的分布と数量的比較を同時に把握できるようにします。単なる地図の派生ではなく、地理情報と統計データを融合したデータビジュアライゼーションの一形式です。
歴史的経緯
カルトグラムの起源は19世紀末にさかのぼります。最初期の例は1896年にフランスの地理学者ギヨーム=ル=サージュ=ラ=ラド(Guillaume Le Sâge La Londe)によって考案されたもので、面積を人口に比例させた「アナモルフィックマップ(Anamorphic Map)」として登場しました。その後、1970年代にアラン・マクイーギン(Alan McEvedy)らによって「密度等値変形地図(Density-Equalizing Map)」という概念が発展し、2000年代にはドリュー・アームストロング(D. Dorling)による「ドーリング・カルトグラム」が登場し、現代的な表現方法の礎を築きました。
データ構造
カルトグラムは地理空間データ(GeoJSON、Shapefileなど)を入力とし、各地域単位に統計データを対応づけます。変形アルゴリズムには大きく分けて以下の二種類があります。
| タイプ | 説明 | 代表的なアルゴリズム |
|---|---|---|
| 連続型カルトグラム | 地図を連続的に変形して密度を均一化する。距離の歪みが小さい。 | Gastner–Newman法(2004) |
| 非連続型カルトグラム | 地域をバブルや矩形として独立に再配置する。隣接関係は保たれない。 | Dorling法(1996) |
目的
カルトグラムの主な目的は、「地理的分布の偏りを数量的に見せる」ことです。特に、人口や経済活動が一部の地域に集中している状況を、通常の地図では見えにくい形で補正して可視化することができます。地理的正確性よりも数量的強調を重視します。
ユースケース
- 国や州ごとの人口・GDP比較
- 選挙結果の票数比率表示(例:アメリカの大統領選)
- 感染症や災害の影響分布可視化
- 教育・福祉・資源の地域格差の分析
特徴
- 形の歪みを伴うが、数量差の理解が直感的。
- 比較対象が多い場合に有効。
- 見慣れない地形変形により、初見では認識が難しい場合もある。
- 地理的文脈を重視する場合には不向き。
チャートの見方
各地域の形状や面積が、基準となる統計量(人口・経済など)に比例しています。したがって、「地図上で大きく見える地域=値が大きい地域」です。形状が極端に変形している場合でも、位置関係(隣接・大陸配置など)を頼りに地理的対応を推測します。
デザイン上の注意点
- 色の意味(値の大小・カテゴリ)を明確に示す凡例を付与する。
- 元の地理的形状を薄くグレーで重ねると認識しやすい。
- 変形の度合いが過大になる場合、情報の信頼性が損なわれるため注意。
- 動画やアニメーションで「通常地図→カルトグラム」への変化を示すと効果的。
応用例
- New York TimesやThe Guardianでは、選挙報道時にカルトグラムを多用。
- Worldmapper Project(Sheffield大学)は、世界各国の人口・健康・経済などを示す多数のカルトグラムを提供。
- D3.jsには
d3-cartogramライブラリがあり、Web上でインタラクティブに生成可能。
代替例
- ヒートマップ(Heatmap):地理的分布を色の濃淡で表現。
- コロプレスマップ(Choropleth Map):地域ごとの値を色で表すが、面積変形はしない。
- バブルマップ(Bubble Map):地図上に円の大きさで数量を表現。
まとめ
カルトグラムは、地図という空間的メタファーを保持しながら、数量の偏りを強調して可視化できる強力な手法です。地理的正確性と視覚的理解のバランスを取る必要がありますが、社会的格差や分布の偏りを「見える化」する手段として非常に有用です。
