コード・ダイアグラム(Chord Diagram)は、円形のレイアウト上で複数のカテゴリ間の関係やフローを可視化するチャートです。円周上に配置されたノード(カテゴリ)を線(コード)で結び、線の太さや色で関係の強さや方向性を示します。複雑な相互関係を一目で理解できるため、ネットワーク分析や貿易フロー、遺伝子発現の可視化などに広く利用されています。


歴史的経緯
コード・ダイアグラムの概念は、1970年代の「サーキュラーネットワーク図(Circular Network Diagram)」に端を発します。
その後、Hans Roslingらによるデータ可視化の発展や、CIRCOS(Krzywinski, 2009)の登場によって、生命科学分野で急速に普及しました。CIRCOSは、ゲノム間の相互関係を円形に描くことで知られました。
後にD3.js(Mike Bostock, 2013)によってWeb上でも汎用的に実装されるようになりました。
データ構造
コード・ダイアグラムは、主に行列形式またはエッジリスト形式のデータを入力とします。
| 構造 | 内容例 |
|---|---|
| 行列形式 | 各行と列がノードを表し、セル値が関係の強さを示す(例:国A→国Bへの輸出額) |
| エッジリスト形式 | source, target, value の3列構成で、関係の方向と大きさを示す |
D3.jsやRAWGraphsなどのツールでは、双方向の関係を自動的に集約して描画します。
目的
主な目的は、複雑な相互関係を直感的に理解することです。特に、カテゴリ間の「総量の比較」と「相互のバランス」を同時に把握するのに適しています。国際貿易や移民フロー、組織内のコミュニケーション分析など、双方向の関係があるデータに効果的です。
ユースケース
国際貿易データ:国間の輸出入の流れを示す
遺伝子間の相互作用:ゲノム解析(CIRCOS)で用いられる
顧客セグメント間の移動:マーケティングや行動分析
音楽アーティストのコラボ関係:文化的ネットワーク可視化
バイオインフォマティクス では、遺伝子間の共発現や染色体間の関連を示すために使用される(例:ヒトゲノム間の相同性)。
経済学・貿易統計 では、国ごとの輸出入や産業間の資金・資源フローの可視化に用いられる。
ソーシャルネットワーク分析 では、人や組織間の関係性を円環的に整理でき、力学的レイアウトよりも対称性が強調される。
視覚的特徴 として、放射状・有機的な構造が美しく、アート的可読性とデータの網羅性を兼ね備えている。
特徴
- 円形レイアウトにより対称性と美観を保ちながら情報を表示できる
- ノード間の関係を線の太さと方向で表現できる
- 関係の総量を扇形の大きさとして示すことができる
- しかし、多数のノードを表示すると線の交差が増え、可読性が低下する欠点もあります
チャートの見方
- 円周上のセグメント:各ノード(カテゴリ)を表す
- コード(弦):関係やフローを表す線。太いほど強い関係を意味する
- 方向性:場合によってはグラデーションや矢印で方向を示す
- 色:カテゴリやグループを識別する補助的要素

| 要素 | 表しているもの | 解釈のポイント |
|---|---|---|
| 円周上のセグメント(Arc) | 各カテゴリ・ノード | 対象(国、産業、個体など)を円形に並べる。長さが値の大きさを示す場合もある。 |
| 弧(Chord) | ノード間の関係またはフロー | 2つのノード間の関係や流入・流出の量を表す。弧の太さが数量を示す。 |
| 色(Color) | グループや方向性 | 同系色でグループを示したり、グラデーションで方向(A→B)を表す。 |
| 弧の向き | 関係の方向性 | 有向データの場合、片側が起点、もう片側が終点となる。 |
| 交差の有無 | 相互関係の複雑さ | 弧が多く交差するほど関係構造が複雑であることを示す。 |
デザイン上の注意点
- ノード数を10〜20程度に制限すると可読性が保てる
- 色の選択はグループの意味づけと区別に直結するため慎重に行う
- 対称性と間隔を均等に保つことで視覚的バランスを高める
- 相互関係の強弱を伝えるために、線幅や透明度を活用する
応用例
- 世界貿易フローの可視化(UN Comtrade)
- ヒトゲノム相互作用マップ(CIRCOS)
- チーム間のコミュニケーション分析(社内Slackやメールデータ)
- 国際移民データ(世界銀行、OECD)
代替例
| チャートタイプ | 比較ポイント |
|---|---|
| サンキー・ダイアグラム | フローの方向性と段階構造を強調できる |
| ネットワーク・グラフ | ノード間の個別関係を詳細に表現できる |
| マトリクス・チャート | 定量的関係をより正確に比較できる |
まとめ
コード・ダイアグラムは、関係性データを視覚的に表現する強力な手法です。その美しい構造と相互性の表現力により、複雑なデータの背後にあるパターンを直感的に理解できます。
ただし、ノード数やリンクが多いと可読性が低下するため グルーピング・色分け・フィルタリング の工夫が重要です。
