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階級区分図とコロプレス・マップ - データ処理と地図表現の違い

地図上で地域ごとの数値を色分けして表す「統計地図」を見たとき、それが「階級区分図」と呼ばれている場合もあれば「コロプレス・マップ(choropleth map)」と説明されている場合もあります。

見た目だけを見れば、両者の違いはほとんど分かりません。どちらも都道府県や市区町村などの領域を色の濃淡で表しており、一般的には「同じもの」とみなされることが多いでしょう。

しかし、両者の概念を厳密にたどると、背景には「データの扱い方」と「地図としての表現方法」という異なる視点が存在します。

つまり、階級区分図は「データをどのように分類して表すか」という統計処理の考え方に由来し、コロプレス・マップは「地域をどのように色で表現するか」という地図表現の技法に由来するのです。

本記事では、なるべく公式な定義をもとに、この2つの用語がどのように違い、どのように関係しているのかを整理します。

階級区分図とは何か

総務省統計局の「なるほど統計学園」では、階級区分図を次のように説明しています。

「統計地図の一つで、地域ごとに値をいくつかの階級に分け、色の濃淡や模様で表したものを階級区分図という。」 (出典:総務省統計局|統計地図(上級編)

このように、「階級区分図」という名称には 階級に区分する(データを分類する)という処理手順 が明確に含まれています。つまり、これは地図の表現形式というよりも 統計値をどのように扱って可視化するかというデータ処理の考え方 を反映した言葉です。

階級区分には、等間隔区分・四分位区分・自然分類(Jenks法)などさまざまな手法があり、どの方法を採用するかによって地図の印象が大きく変わります。したがって、「階級区分図」とは、単に色分け地図を指すのではなく 階級化という統計的操作を経た結果としての主題図 なのです。

階級区分図

コロプレス・マップとは何か

一方、英語圏で用いられる「コロプレス・マップ(choropleth map)」は、地図表現のカテゴリーを指す用語です。Esri GIS Dictionaryでは、次のように定義されています。

A map that uses differences in shading or coloring within predefined areas to indicate the average values of a property or quantity in those areas.
(出典:Esri GIS Dictionary – Choropleth map

つまり、コロプレス・マップは 地理的な領域(都道府県、市町村など)を、属性値の大きさに応じて色で示す地図表現 を指します。ここで重要なのは、「階級化の有無」は必須条件ではないという点です。実際、連続データを連続的なカラースケールで表すコロプレス・マップも存在します。

コロプレス・マップ

両者の違いを整理する

観点階級区分図コロプレス・マップ
起源・用法日本の統計・地理教育の用語国際的な地図学・GISの用語
強調点データの階級化(分類処理)色彩による地域的表現
定義主体統計教育・行政文書地図学・カートグラフィ
必須条件階級分けを行うこと地域ごとの数値属性を色で表すこと
関係性「階級区分データ」を用いた主題図階級化の有無を問わない表現技法

このように 階級区分図は「データの処理過程」に焦点を当て、コロプレス・マップは「地図表現の結果」に焦点を当てる という違いがあります。

データと地図表現の関係

「階級区分」はデータの扱い方の問題であり、地図表現そのものとは独立しています。

階級区分データは他の主題地図にも用いることができますし、逆にコロプレス・マップは階級区分されていない連続値データを用いても成立します。両者は重なり合う部分を持ちながらも、本質的には 別の概念 なのです。

背景と用語の整理

国際的には「choropleth map」が地図学の正式用語であり、「階級区分図」はその翻訳的・教育的な位置づけとして用いられています。

国土地理院が策定する「地理情報標準プロファイル(JPGIS)」でも、「choropleth map」は「地域単位の量的データを色彩で表現する主題図」と定義されており、日本語訳として「階級区分図」を用いる場合があることが明記されています。

ただし、この訳語はあくまで便宜的であり、階級区分という処理を強調する点でやや限定的な訳語といえます。

近年の地理情報システム(GIS)やデータビジュアライゼーション分野では「コロプレス・マップ」という表現をそのまま使うケースが増えています。

まとめ

  • 「階級区分図」は、統計値を階級化して可視化する考え方に基づいた日本語の教育・行政用語。
  • 「コロプレス・マップ」は、地域ごとの量的データを色で示す地図表現を指す国際的な地図学用語。
  • 両者は密接に関連するが、階級区分図はあくまでコロプレス・マップの一部に位置づけられる。
  • データ処理(階級区分)と地図表現(コロプレス)は分けて考えることで、より柔軟で正確な可視化設計が可能になる。

参考・出典

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Nov 08, 2025 17:10 +0900