2025年8月、アフリカ連合(African Union, AU)は、世界で広く用いられてきたメルカトル図法を廃し、アフリカ大陸の実際の大きさを正確に示す「イコールアース図法(Equal Earth Projection)」を採用するよう国際社会に呼びかけました。この声明は、アフリカのイメージを再構築し、教育・メディア・政策の場における偏見を是正することを目的としています。

チャートの見方:メルカトルとイコールアースの違い
メルカトル図法は、16世紀に航海用として作られた地図投影法で、経線と緯線を直角に交差させ、方向(方位)を正確に保つ特徴があります。
しかしこの方式では、緯度が高くなるほど面積が拡大されるため、北半球の国々(特にヨーロッパや北アメリカ)が大きく、赤道付近の国々(アフリカや南米など)が実際より小さく描かれます。
一方、イコールアース図法は2018年にBojan Šavrič(Esri)、Tom Patterson(U.S. National Park Service)、Bernhard Jenny(Monash University)によって開発されました。
この図法は 等面積投影(equal-area projection) の一種で、世界全体の形を自然に保ちながら、各地域の面積比を正確に表現します。
特にアフリカ大陸は、北アメリカやヨーロッパよりはるかに大きいことが一目でわかります。

背景:地図が作る「世界観」
アフリカ連合の副議長Selma Malika Haddadi氏は、Reutersの取材に対し次のように述べています。
「これは単なる地図の問題ではありません。アフリカを“周縁的”に見せる誤った認識が、教育や政策に影響を与えてきたのです。」
メルカトル図法は植民地時代のヨーロッパによって広められ、その後も多くの教育機関・出版社・国際機関で標準地図として使用されてきました。
その結果、アフリカや南半球の国々は「小さく」「遠く」に見える視覚的バイアスの中で描かれ続けてきたのです。
「Correct The Map」キャンペーンとは
今回のAUの呼びかけは、「Correct The Map」という国際キャンペーンに端を発しています。
このキャンペーンはアフリカ系団体 Africa No Filter と Speak Up Africa が共同で主導し、各国政府、教育機関、メディア、国際機関に対し、面積を正しく保つ地図の採用を求めています。
キャンペーンサイトでは、次のような声明が掲げられています。
“For over 450 years, we have based our understanding of Africa, and the world, on a map that is wrong.” (450年以上にわたり、私たちは誤った地図をもとに世界を理解してきたのです。)
サイト内では、メルカトル図法とイコールアース図法を並べた比較画像や、署名・賛同を呼びかけるフォームも掲載されています。
イコールアース図法の特徴と意義
| 項目 | メルカトル図法 | イコールアース図法 |
|---|---|---|
| 主な用途 | 航海、ナビゲーション | 教育、世界地図展示 |
| 特徴 | 角度・方位を正確に保つ | 面積を正確に保つ |
| 問題点 | 高緯度地域が拡大され、赤道付近が過小表示される | 見た目の歪みがややあるが、面積比が正しい |
| 開発年 | 1569年 | 2018年 |
| 主な開発者 | Gerardus Mercator | Bojan Šavrič、Tom Patterson、Bernhard Jenny |
イコールアース図法は、既存のロビンソン図法に似た自然な地球の形を保ちながら、各国の面積を実際の比率に近づけることに成功しました。
特に教育現場において「アフリカが本当はどれほど大きいのか」を直感的に理解できる点が高く評価されています。
AUのアクションと今後の展望
AUはこのキャンペーンへの支持を公式に表明し、加盟国および国連地理統計機関(UN-GGIM)に対して、地図の標準投影法を見直すよう要請しています。
この動きは、単なる地図の更新ではなく、世界におけるアフリカの認識を是正しようとする文化的・教育的な取り組みとして注目されています。
まとめ
アフリカ連合による「地図を正そう」という呼びかけは、単なる地図学上の問題を超えて、世界の構造的な偏りを問い直すアクションです。
地図は世界をどう見るかを形づくる「ビジュアル言語」であり、その更新は、認知の再構築に直結します。
今後、教育・メディア・国際政策の現場でイコールアース図法がどこまで普及するかが、グローバルな視覚的公平性の試金石となるでしょう。
