グリッド・カルトグラム(Gridded Cartogram)は、各地域を同じサイズのグリッドセル(正方形や六角形)で表現し、地理的な配置をおおまかに再現する地図手法です。モザイク・カルトグラム(Mosaic Cartogram)、タイルグリッドマップ(Tile Grid Map)、グリッドマップ(Grid Map)とも呼ばれます。すべての地域が等しい大きさで表示されるため、面積の小さい地域が見落とされることなく、各地域に均等な視覚的重みが与えられます。
歴史的経緯
グリッド・カルトグラムの正確な起源は特定の論文や発明者に帰属するものではありませんが、2010年代以降にデータジャーナリズムやWebベースのデータビジュアライゼーションの分野で急速に普及しました。
特にアメリカ合衆国の50州を正方形のグリッドで表現する「Tile Grid Map」は、FiveThirtyEightやNPR、Bloombergなどのメディアが選挙報道で採用したことで広く知られるようになりました。通常の地図では面積の大きいアラスカやモンタナなどが過度に目立ち、人口の多い東海岸の小さな州が見えにくくなるという問題を解消するために、各州を1つの正方形で表現する手法が採用されたのです。
ヨーロッパでも、EU加盟国を六角形のグリッドで表現する手法が使われるようになりました。日本においても、47都道府県を正方形で表現するグリッド・カルトグラムが見られるようになっています。
近年では、グリッドの配置を自動的に最適化するアルゴリズムの研究も進んでおり、地理的位置関係をできるだけ忠実に再現しつつ、グリッド上での表現を生成する手法が提案されています。
データ構造
グリッド・カルトグラムのデータ構造は、他のカルトグラムに比べてシンプルです。
| データ種別 | 内容 | 形式例 |
|---|---|---|
| 地域識別子 | 各地域を一意に特定するコードや名称 | 州コード, 都道府県コード |
| グリッド座標 | グリッド上での行・列の位置 | (row, col) の整数ペア |
| 統計データ | 色で表現する数値データ | 人口密度, 投票率, 感染率など |
| カテゴリデータ(任意) | 色分けに使用するカテゴリ変数 | 政党, 地域区分など |
| ラベル | グリッドセル内に表示する名称や略称 | CA, NY, 東京, 大阪など |
地理境界のポリゴンデータは必要ありません。各地域をグリッド上のどの位置に配置するかという対応表(レイアウト定義)が中心的なデータとなります。このレイアウトは手動で設計されることが多いですが、自動生成アルゴリズムも存在します。
目的
グリッド・カルトグラムの主な目的は、すべての地域に等しい視覚的重みを与え、面積の偏りによるバイアスを排除することです。
通常の地図やコロプレスマップでは、面積の大きい地域が視覚的に支配的になり、面積の小さい地域は見過ごされがちです。例えば、アメリカの地図ではアラスカやテキサスが目を引く一方で、ロードアイランドやデラウェアはほとんど見えません。日本の地図でも、北海道や岩手県が大きく見える一方で、東京都や大阪府は小さく表示されます。
グリッド・カルトグラムは、すべての地域を同じサイズのセルで表現することで、この問題を根本的に解消します。データの値は面積ではなく色(コロプレスのように)で表現されるため、すべての地域のデータが等しく視認できます。
ユースケース
- アメリカ大統領選挙における州ごとの投票結果の可視化(各州を1セルで表現し、支持政党の色で着色)
- 日本の都道府県別の統計データ(出生率、高齢化率、経済指標など)の可視化
- EU加盟国の政策対応状況の比較
- 各国の特定指標(ワクチン接種率、教育水準など)の一覧比較
- 地域別の時系列変化をスモールマルチプルと組み合わせて表示
- スポーツリーグにおける各チームの成績比較(チームの本拠地に基づく配置)
特徴
- すべての地域が同じサイズのセルで表現されるため、面積による視覚的バイアスが排除されます。小さな地域も大きな地域と同等に扱われます。
- 地理的な位置関係はおおまかに再現されますが、正確な隣接関係や距離は保証されません。グリッドの制約上、一部の地域の位置が実際とずれることがあります。
- 各セルは均等なサイズのため、面積によるデータ表現はできません。データの表現は主に色(濃淡や色相)によって行われ、コロプレスマップと類似した読み方になります。
- 構造がシンプルで、HTMLテーブルやCSSグリッドで実装できるため、Webでの制作が容易です。
- グリッドのレイアウト設計(どの地域をどの位置に配置するか)が手作業になることが多く、地域数が多い場合は設計に手間がかかります。
チャートの見方
グリッド・カルトグラムでは、各セル(正方形や六角形)が一つの地域を表しています。セルのサイズはすべて均等であるため、面積からデータの大小を読み取ることはできません。
データの値は色で表現されています。コロプレスマップと同様に、色の濃淡や色相を見て値の高低を判断します。凡例を確認して、各色がどの値範囲やカテゴリに対応しているかを把握します。
セルの配置は地理的な位置関係をおおまかに反映しているため、北にある地域のセルはグリッドの上部に、南にある地域は下部に配置されます。ただし、厳密な位置関係ではないため、グリッド上の隣接が実際の地理的隣接を意味するとは限りません。各セルにはラベル(略称や名称)が付与されていることが多く、地域の特定にはラベルを参照します。
デザイン上の注意点
- グリッドのレイアウト設計は、地理的な位置関係をできるだけ反映するように慎重に行います。読み手がおおよその位置から地域を推測できるようにすることが重要です。
- 各セルに明確なラベル(略称や名称)を付与します。均等なセルでは形状による識別ができないため、ラベルが唯一の識別手段です。
- 色の選択には、コロプレスマップと同様の配慮が必要です。ColorBrewerなどの色覚バリアフリー対応の配色を採用します。
- 正方形と六角形のどちらを使うかは、地域数や配置の制約に応じて選択します。六角形は隣接方向が6方向あるため、位置関係の表現に柔軟性がありますが、実装がやや複雑になります。
- セル内に小さなスパークラインやアイコンを追加することで、情報量を増やすことも可能です。ただし、過度な情報の詰め込みは可読性を低下させます。
- レイアウトの根拠(なぜこの配置にしたか)を注釈として示すと、読み手の理解が深まります。
応用例
- FiveThirtyEightは、アメリカの選挙予測において各州を正方形で表現したグリッド・カルトグラムを多用しています。各セルを支持政党の色で着色し、すべての州が等しい視認性で表示されるため、選挙結果の全体像を把握しやすくしています。
- NPRやBloombergも、政策や経済に関する州別データの可視化にグリッド・カルトグラムを活用しています。
- 日本のデータジャーナリズムでは、47都道府県を正方形で表現したグリッド・カルトグラムが使用されることがあります。北海道から沖縄までの配置を工夫し、地理的な位置感覚を維持しています。
- インタラクティブなWebアプリケーションでは、各セルにホバー時の詳細情報表示やクリックによるドリルダウン機能を追加し、探索的なデータ分析ツールとして活用されています。
代替例
- 連続的カルトグラム(Continuous Cartogram):面積をデータに比例させて変形し、隣接関係を維持します。面積でデータを表現できますが、形状の歪みが生じます。
- 非連続的カルトグラム(Non-Continuous Cartogram):各地域の形状を保持しながら独立にスケーリングします。形状による地域識別が可能ですが、隣接関係は失われます。
- 擬似連続カルトグラム(Pseudo-Continuous Cartogram):地域を円や四角形に置き換え、面積をデータに比例させます。グリッド・カルトグラムと異なり、面積でデータを表現できます。
- コロプレスマップ(Choropleth Map):実際の地域の形状と面積を使い、色で値を表現します。地理的正確性は高いですが、面積の大きい地域が視覚的に優位になります。
まとめ
グリッド・カルトグラムは、各地域を均等なサイズのグリッドセルで表現することで、面積による視覚的バイアスを排除する地図手法です。すべての地域が等しい大きさで表示されるため、小さな地域も大きな地域と同等の視覚的重みを持ちます。データの値は色で表現されるため、コロプレスマップと同様の読み方が可能です。アメリカの選挙報道で広く普及し、Webベースの実装も容易であるため、データジャーナリズムやインタラクティブな可視化で活用の場が広がっています。レイアウト設計の工夫と明確なラベルの付与が、効果的なグリッド・カルトグラムの鍵となります。
参考・出典
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