The Hindu(ザ・ヒンドゥー)は、4人の働き手が持ち歩いたセンサーの値から、暑さ指数を計算しました。作品は、2025年6月9日のインド南部チェンナイの最高気温を36°Cと書いています。同じ日、屋台の調理人と海に出た漁師の暑さ指数は、最大69°Cに達しています。センサーは温度・湿度計を付けた Arduino Nano で、暑さ指数は米国気象局(NWS)の式で計算しています。
作品は、インドの英字紙 The Hindu の Data team が2025年7月12日に公開した、単独のインタラクティブページです。ページの見出しは「TAKING ON THE HEAT」で、Sigma Awards への応募名は「Chennai’s heat index: How heat stressed are you?」です。以下は、作品ページの本文とコード、Sigma Awards の応募書類に沿って、ページを見る順に読みます。
6月9日、最高気温は36°Cだった
ページを開くと、水を飲む人の白黒写真に、赤橙の大きな文字で「HEAT」と出ます。その下に、リード文が一行あります。

The Hindu Data team/The Hindu「Heat index: how heat-stressed are you?」より引用
“The maximum temperature on June 9 in Chennai was 36°C. But, high humidity and the kind of work they did compounded the heat stress for many.”
6月9日のチェンナイの最高気温は36°Cだった。しかし湿気と仕事の種類が、多くの人の暑さのストレスを重くした、という要旨です。記事は最初の一行で、比べる相手をこの最高気温に決めている、と読めます。
続いて、4人の顔写真のカードが並びます。カードには名前、職業、その日いちばん高かった暑さ指数と時刻、本人の言葉が書かれています。
| 人 | 職業・場所 | カードに書かれた最大値 |
|---|---|---|
| Sathya(サティヤ) | 中心部 Parry’s Corner の tiffin cook(食事を売る屋台の調理人) | 11:30 a.m. に 69°C |
| Anand(アナンド、33歳) | Marina Beach からベンガル湾に出る漁師 | 海上で 12:56 p.m. に 69°C |
| Prakash(プラカシュ) | Korukkupet でステンレスの食器を磨く工場の労働者 | 3:10 p.m. に約 66°C |
| Leon(レオン、仮名) | オートリキシャの運転手 | 2:20 p.m. に 56.8°C |
カードの4つの数字は、どれも36°Cより20°C以上高い値です。
手作りのセンサーと、NWS の式
方法は、カードの後の本文にあります。
“The Hindu Data team used Arduino Nano devices with temperature and humidity sensors to continuously record time-stamped data on an on-device SD card. We handed these devices out to four people from different parts of Chennai.”
温度・湿度センサー付きの Arduino Nano で、時刻つきの記録を本体の SD カードに取り続けた。その機材を、チェンナイの別々の地域で働く4人に渡した、という要旨です。記録した日は2025年6月9日で、16時に小雨が降り、市の暑さのピークから数週間後だったと書かれています。
暑さ指数の出し方は、ページ末尾の注にあります。米国気象局(記事の表記は「U.S. National Weather Service (NOAA)」)が作った、気温と相対湿度から出す式を使った。インド気象局(IMD)はその値を、35°C未満、36〜45°C、46〜55°C、55°C超の4段階に試験的に分けている、という内容です。本文の例「35°C・相対湿度85%なら暑さ指数60°C」は、NWS の式で計算し直すと 60.0°C になり、一致しました。
**作品は、データの欠けと異常値を隠していません。**本文は「機材をうっかり切った時間があり、データが欠けている」と断り、その時間の様子は聞き取りで補ったと書いています。Sathya の図には、機材をコンロのそばに置いたため異常に高い値が出た、という注記があります。Anand は夜に機材を切ってしまい、夜の暑さ指数は計算できなかったと書かれています。
スクロールで切り替わる、3つの数字
4人それぞれに、一日を追う場面が一つずつあります。画面の左3分の1に、正方形のイラストと3つの数字が固定されます。数字は「TIME」「TEMP」「HEAT INDEX」です。右の3分の2を本文の段落が流れ、段落が画面の中ほどに来ると、イラストと数字が切り替わります。

Soumyadip Sinha(作品のクレジット欄の Illustrations)/The Hindu「Heat index: how heat-stressed are you?」より引用
上の図は、Sathya がお玉を置いた場面です。11:30 A.M.、気温48.3°C、暑さ指数69°C。どの段落にどの値を出すかは、HTML の段落ごとに data-time、data-temp、data-felt の属性で書かれています。
データを、どの見た目に対応させたかを表にします。
| 部品 | データ | 見た目・素材 | 具体 |
|---|---|---|---|
| リード文 | 作品が書く最高気温 | 文字 | 36°C |
| 4人のカード | 人ごとの最大の暑さ指数と時刻 | 顔写真+名前+一文+本人の言葉 | 69/69/約66/56.8°C |
| 固定パネルの時刻 | 段落の時刻 | 数字が時計のように進むアニメーション | 時刻の差に応じて1〜10分刻みで数える |
| 固定パネルの気温 | 段落の気温 | 数字+文字色(5段階) | 30/33/36/39°C を境に色が変わる |
| 固定パネルの暑さ指数 | 段落の暑さ指数 | 数字+文字色(5段階) | 35/45/55/65°C を境に #ffe5e5 から #f24405 まで |
| 固定パネルの画像 | 段落の場面 | 白黒の線のイラストの差し替え | Sathya1〜4、Fisherman1〜5 など |
| 時系列の折れ線 | センサーから計算した暑さ指数 | 黒地に赤橙(#f24405)の一本の線 | 横軸=時刻、縦軸=暑さ指数 |
| 折れ線の注記 | ピーク・異常値・欠測 | 白い円と曲がった矢印+一文 | 「peaked to 69°C at around 1 p.m.」など |
数値を色に置き換えているのは、パネルの気温と暑さ指数の文字色だけです。暑さ指数の色の境は、IMD の4段階(35/45/55°C)に、65°C の境をもう一つ足した5段階です。そのため、いちばん濃い赤橙になるのは、69°C の2人と 66°C の Prakash の場面だけです。IMD の区分では同じ「55°C超」の Leon(56.8°C)は、一段薄い色にとどまります。色の段階は、4人の中の差を見せるために一段足されている、と読めます。
4枚の折れ線は、物差しがそろっていない
場面の終わりに、人ごとの暑さ指数の折れ線グラフが1枚ずつ置かれます。線の本体は PNG 画像で、軸の数字と注記は HTML の文字です。HTML のコメントから、Adobe Illustrator と ai2html(v0.121.1)で仕上げたことが分かります。
4枚は、時間の範囲も縦軸の範囲も、人ごとに違います。
| 人 | 横軸の範囲 | 縦軸の範囲 | 注記 |
|---|---|---|---|
| Sathya | 9:00 a.m.〜翌 9:00 a.m.(約24時間) | 40〜80(10刻み) | コンロのそばの異常値/「peaked to nearly 69°C at around 11.30 a.m.」 |
| Anand | 9:00 a.m.〜6:00 p.m. | 30〜70(5刻み) | 「peaked to 69°C at around 1 p.m.」(デスクトップ版) |
| Prakash | 10:00 a.m.〜12:00 a.m. | 40〜65(5刻み) | 「peaked to 66°C in the afternoon」 |
| Leon | 9:00 a.m.〜11:00 p.m. | 40〜55(2.5刻み) | 「peaked to 56.8°C during one of his afternoon rides」「Missing data」 |
図の上端近くまで届く山は、Leon の図では56°C台、Sathya の図では80°Cを超えます。4枚を並べて比べる作りではありません。人と人を比べる手がかりは、注記の数字と、冒頭の4枚のカードが担っています。図は、一人ひとりの一日の形を見せるために切られている、と読めます。

The Hindu Data team/The Hindu「Heat index: how heat-stressed are you?」より引用
Sathya の図では、線が正午ごろに80の目盛りを超えて伸びます。その山を白い円で囲み、「機材をコンロのそばに置いた」と注記しています。「69°C」の注記が指すのは、その手前の低い山です。カードの69°Cは、異常値の山を外して選んだ値だと読めます。

The Hindu Data team/The Hindu「Heat index: how heat-stressed are you?」より引用(デスクトップ版)
Anand の図には、食い違いがあります。ページは画面の幅で2つの版を切り替えます。幅1144px以上のデスクトップ版の注記は「Anand’s heat index peaked to 69°C at around 1 p.m.」です。それより狭い画面の版では「peaked to 48°C at around 1 p.m.」になっています。どちらの版も縦軸は30〜70で、線の形は同じです。線の頂点は70の目盛りのすぐ下にあり、デスクトップ版の69°Cと合います。小さい画面の48°Cは、書き換え漏れだと読めます。スマートフォンで読んだ人は、カードでは69°C、図の注記では48°Cを読むことになります。

The Hindu Data team/The Hindu「Heat index: how heat-stressed are you?」より引用
Leon の図は、欠けた時間を線でつながず、空白のまま「Missing data」と書いています。線の色は4枚とも同じ赤橙の一色で、値によって色を変えてはいません。IMD の段階を示す帯も、背景には描かれていません。
第三者はこの方法をどう見るか
この作品を論じた批評は見つかりませんでした。代わりに、手法を測る資料を論点ごとに挙げます。
一つめは、個人の曝露を測る意味です。Kuras らは2017年の論文で、こう書いています。
“Personal exposure research can help reveal the extent of exposure misclassification that occurs when individual exposure to heat is estimated using ambient temperature measured at fixed sites”
定点で測った気温から個人の曝露を推定すると、誤分類が起きる。その大きさを明らかにできるのが個人曝露の研究だ、という要旨です。「街の最高気温36°Cと、人が浴びた値の差」という作品の組み立ては、この指摘の報道版にあたると読めます。
二つめは、暑さ指数の式の限界です。NWS の Weather Prediction Center は、式の説明ページにこう書いています。
“The Rothfusz regression is not valid for extreme temperature and relative humidity conditions beyond the range of data considered by Steadman.”
回帰式は、Steadman のデータの範囲を超える極端な条件では有効ではない、という意味です。UC Berkeley の Ashok Gadgil と Elif Kilic は、Down To Earth への寄稿(2024年6月18日)で、暑さ指数は日陰で軽く動く健康な若い大人を前提にしている、と注意を促しています。作品の69°Cは、気温47〜48°Cという条件から出た値です。海上の漁師や、鍋の前の調理人は、式の前提の外にいると読めます。作品は異常値を注記で明かしていますが、式の適用範囲には触れていません。
三つめは、同じ方法をとる研究です。Princeton 大学 Engineering の記事(2024年12月20日)によれば、Anu Ramaswami らのチームは、デリーとチェンナイで住民に熱センサーのペンダントを配りました。温度と湿度から暑さ指数を出す、作品と同じ考え方の機材です。違いは、研究が多くの参加者を集めるのに対し、作品は4人・1日に絞って物語として見せた点だと読めます。
この作品は Sigma Awards 2026 のショートリストに入りました。応募は84か国から543件で、最終候補は31件です。受賞10作の発表に The Hindu の名前はありません。
作品ページの最後には、The Hindu のメイキング動画「Behind the scenes: How the data and science teams measured heat stress | In Focus podcast」が埋め込まれています(YouTube)。筆者は動画の中身を見ていません。
使い道
この作品から持ち帰れるのは、比べる相手を一つに決めて、最初に置くことです。リード文の36°Cがあるから、カードの69°Cが「高い」と読めます。基準になる数字を先に見せ、その横に、人が浴びた数字を並べる。測り直しの報道では、この順番が使えます。
次に、少ない人数を、数字と言葉で追うことです。4人・1日は統計ではありません。代わりに3つの数字が、段落ごとに本人の行動と結びつきます。
三つめは、欠けと異常を図の中で言うことです。「Missing data」の空白や、コンロのそばの注記は、数字をどこまで信じてよいかを読者に渡しています。一方で、版ごとに違う注記や、そろわない物差しは、比べる読者を迷わせます。図を画面幅で作り分けるときは、注記の数字まで両方の版で照らし合わせる。縦軸を人ごとに変えるなら、比べる場所を別に用意する。この作品は、その両方の例になっています。
参考・出典
一次情報
- The Hindu Data team, “Heat index: how heat-stressed are you?"(見出し「TAKING ON THE HEAT」), The Hindu, 2025-07-12(2025-07-30 更新). Reporting and writing: Nitika Francis/Production and data: Srinivasan Ramani/Hardware Assembly: Sanjeevi Maran/Interactive and Code: Areena Arora/Illustrations: Soumyadip Sinha ほか. 作品
- 作品のスクロール処理と色の段階(gif.v2.js). JavaScript
- 作品の CSS(色の変数、2列の固定レイアウト). gif.v2.css / project_styles.v8.css
- Sigma Awards 2026 応募書類 “Chennai’s heat index: How heat stressed are you?"(2026 · ショートリスト). Sigma Awards 作品一覧
- The Hindu, “Behind the scenes: How the data and science teams measured heat stress | In Focus podcast”. YouTube
- The Sigma Awards, “Remarkable diversity, confronting some of the most urgent issues of our time: announcing the 2026 Sigma Awards shortlist”. 発表
- The Sigma Awards, “From toxic supply chains in Africa to Baltic sabotage to stolen children in Syria: 10 data projects win 2026 Sigma Awards”. 発表
第三者評価
- E. R. Kuras ほか, “Opportunities and Challenges for Personal Heat Exposure Research,” Environmental Health Perspectives, 125(8):085001, 2017. PubMed / doi:10.1289/EHP556
- NOAA/NWS Weather Prediction Center, “The Heat Index Equation”. 解説
- Ashok Gadgil, Elif Kilic, “Get the Heat Index right: an important first step to protect people from heatwaves,” Down To Earth, 2024-06-18. 寄稿
- Molly Sharlach, “Measuring the human impacts of extreme heat to guide cities’ climate action plans,” Princeton Engineering, 2024-12-20. 記事




