ロリポップチャート(Lollipop Chart)は、棒グラフの太い棒を細い線(スティック)に置き換え、値の位置を円(キャンディ)で示すチャートです。機能は棒グラフと同じで、カテゴリごとの量を比較します。
いまこの名前で呼ばれるようになったきっかけは、2011年3月、当時 The Data Studio(InterWorks)にいた Andy Cotgreave の一連のブログです。彼が解こうとしていた問題は、新しいデータ構造の発明ではなく、**値がどれも高く、長い棒が何本も並ぶ棒グラフが「見づらい」**ことでした。
ただし、ゼロ基準から点まで線を伸ばす表現は、Cotgreave より四半世紀前に William S. Cleveland がドットチャートの一種として書いています。正確に言うと、Cotgreave は「発明者」というより、名前を付け、用途を定め、Tableau コミュニティ経由で普及させた人です。

値が 80% を超えて並ぶ架空の満足度データ。左の棒グラフはインクが多く、右のロリポップは値の位置を円で示す。
別名
- Lollipop Plot
- 棒グラフとドットプロットのハイブリッド(説明用の呼び方)
数学のグラフ理論にある lollipop graph(完全グラフに道を付けた形)は別物です。Stephen Few も、Cotgreave がこの用語をデータ可視化に転用した時点では、その数学用語を知らなかったと書いています。
歴史的経緯
1984–1985:Cleveland のドットチャート
統計学者 William S. Cleveland は、1984年の論文 Graphical Methods for Data Presentation: Full Scale Breaks, Dot Charts, and Multibased Logging(The American Statistician)で、ラベル付き数値を示す手法として dot chart(ドットチャート) を提案しました。棒グラフの代替であり、量は点の位置で読む、というのが本筋です。
翌1985年、Cleveland と Robert McGill の Graphical Perception and Graphical Methods for Analyzing Scientific Data(Science)には、いまのロリポップにかなり近い記述があります。
When the baseline for the graph is zero […], the dotted lines can end at the data dots; the data can be visually decoded by judging the positions of the data dots along the horizontal scale or by judging the lengths of the dotted lines.
(基準線がゼロのとき、点線はデータ点で止めてよい。点の位置でも、点線の長さでも値を読める)
逆に、ゼロ(または意味のある基準)がないときは、線を点で止めず、プロット領域全体に通すべきだ、とも書いています。点で止めると、線の長さが意味のない量を符号化してしまうからです。
つまり1980年代すでに、
- ゼロ基準あり → 点まで線を伸ばしてよい(長さでも読める)
- ゼロ基準なし → 線は点を越えて全体に通す(位置だけで読む)
という使い分けが、一次文献にあります。後者はいわゆる Cleveland のドットプロット、前者は見た目としてロリポップに近いものです。
2004頃:Few は「名前が付く前」から警告していた
Stephen Few は 2017年の記事で、この形は Cotgreave が名付ける前から現場にあり、自分は 2004年から Show Me the Numbers の講座で使わないよう教えてきた、と書いています。Excel のドロップラインなどで、点までしか届かない線が簡単にできてしまう、というのが彼の見立てです。これは Few 自身の回想なので、講座資料そのものまでは確認できていません。ただし「名前の誕生」と「図法の誕生」を分けて考える材料にはなります。
2011年3月:Cotgreave が名前を付け、用途を書いた
2011年3月10日、Cotgreave は Lollipop charts: the search for the perfect mark (part one) を公開します。続く3月17日の Lollipop charts: part two が、いまも読める一次資料です。当時は Tableau 6 のデュアル軸で、細い棒と円を重ねて作っていました。
Part two の書き出しは、目的をはっきり述べています。
I explained how I stumbled across the lollipop chart as a way of displaying data when the values are all very high.
(値が高いとき、つまり棒がみな長いときに使う見せ方として、ロリポップに行き当たった)
2012年、Applied Visual Analytics の Ben Jones は、当時まだ残っていた Part one から特徴を引用しています。
- すべてのカテゴリの値が高い(棒が長い/高い)ときに使える
- 軸ラベルとの対応を保ったまま、データインク比を大きく下げられる
- 見せた人は「きれい」かつ「読みやすい」と感じた
- 次元を足してスモールマルチプルにしても成立する
2017年、Stephen Few がロリポップを「形の崩れた棒グラフ(malformed bar graph)」と呼んだあと、Cotgreave は Lollipop charts, revisited で当時の問題設定を再掲します。
Problem: A bar chart with many bars of a long length are unpleasant to look at.
太い棒はインクが多すぎる。細い線だけだと輪郭が弱い。ロリポップはそのあいだの妥協だ、というのが本人の説明です。Few が使った「値の幅が大きく、本数の少ない棒グラフ」は、自分が解こうとした状況ではなかった、とも書いています。
同じ記事の脚注で、Cotgreave は発明者かどうかにも触れています。
Did I invent lollipop charts? Alberto Cairo credited me with their invention in his book The Truthful Art, and I’m not going to argue against that!
Cairo の The Truthful Art(2016)の本文は、もう少し慎重です。「発明した」ではなく、この呼び方を付けたのは Cotgreave だと思う、と書いています。
I think that it was Tableau’s visualization designer and data analyst Andy Cotgreave who came up with this term.
整理すると、
| 何が起きたか | 誰 | いつ |
|---|---|---|
| ゼロ基準なら点まで線を伸ばしてよい、と書いた | Cleveland | 1984–1985 |
| 「ロリポップチャート」と名付け、高い値が並ぶ棒グラフの代替として普及させた | Cotgreave | 2011 |
| その呼び名を著書で紹介した | Cairo | 2016 |
| 棒グラフの劣化形だと批判した | Few | 2017(講座では2004から、と本人談) |
その後の定着
名前が付くと、ツールに載ります。
- Tableau 公式ブログ(2017)は、Cotgreave のチュートリアルを直接の起点として紹介しています。
- R の
ggalt::geom_lollipop()(Bob Rudis)は、ヘルプに “the creation of Andy Cotgreave going back to 2011” と書いています。 - Highcharts は専用シリーズ
lollipopを持ち、公式ドキュメントの用途説明は Cotgreave とほぼ同じです。値がレンジの約90%に寄っているとき、モアレを避け、見た目の攻撃性を下げる、とあります。
データ構造
棒グラフと同じです。カテゴリと、1つの数値。
| カテゴリ | 値 |
|---|---|
| 国A | 92 |
| 国B | 88 |
| 国C | 85 |
値が2点ある(前年と今年、男性と女性など)なら、ロリポップではなくレンジプロット/ダンベルチャートの領域です。
目的
Cotgreave 自身の目的は、次の一点に尽きます。
値が高いカテゴリが多数並ぶとき、太い棒のインクと圧迫感を減らしつつ、ラベルと値の対応は残す。
冒頭の比較図が、その問題設定そのものです。棒は長さで量を伝えますが、値が上限付近に寄ると、画面の大半が塗りつぶされます。ロリポップは棒を線に削り、円で値の位置を残します。
彼が Part two で書いた利点は、見た目だけではありません。
I’ve started using this technique regularly as it engages users, and improves the data-ink ratio without sacrificing interpretation.
(ユーザーが食いつき、解釈を犠牲にせずデータインク比が上がる)
Cairo は Few の記事へのコメントで、別の言い方もしています。棒が8〜9本を超えると忙しく見えることがあり、ロリポップは棒のあいだの余白を増やせる。円の中心で値を示すのはやや不正確だが、円を小さくするか、円の端で値を示す工夫はできる。細い棒だけでもよいが、先端の円があると値の位置を探しやすい、という立場です。
ユースケース
向くのは、Cotgreave / Highcharts が書いた条件に近いときです。
- 値がレンジの上限付近に集まり、棒がどれも長い(例:達成率 80〜95%)
- カテゴリ数が多く、太い棒だと画面がインクで埋まる
- スモールマルチプルで、同じ形を繰り返したい
- 棒の先端にラベルやアイコンを置きたい(Tableau では円を Shape に替える例もある)
向かないのは、Few と Andy Kriebel が指摘した条件です。
- 値の幅が大きく、本数が少ない(普通の棒グラフで足りる)
- 軸がゼロから始まっていない(スティックの長さが量を偽る)
- 長さのごく小さな差を精密に比べたい(棒の端面のほうが読みやすい)
特徴
| 視点 | 内容 |
|---|---|
| 強み | 高い値が並ぶときのインクを減らせる。点で値の位置を示し、線でラベルとつなぐ |
| 弱み | 値は円の中心。円の外側まで線が伸びると、長さとしては過大に見える |
| 適したデータ | ゼロ基準の単一数値、カテゴリ多数、値が高めに寄っている |
| 不向き | 非ゼロ基準、積み上げ、ごく近い値の精密比較 |
Few の批判の核はここです。棒グラフは「長さ」と「端面の位置」の両方で値を符号化している。ロリポップは線を細くして長さを弱め、先端を丸くして端面を曖昧にする。円の中心が値なのに、円の半分は値の先にはみ出す。
2011年の Part two コメント欄でも、似た指摘はすぐに出ています。Joe Mako は、線を点で止めると線そのものが模様になり、目が線を追ってしまう。線を領域全体に通せば背景になり、点同士の比較に戻る、と書いています。これは Cleveland の「ゼロがないなら線は通す」と同じ論理です。
チャートの見方
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| カテゴリ軸 | 項目名。ラベルが長いなら横向きロリポップが読みやすい |
| 数値軸 | 原則ゼロから始める。棒グラフと同じ |
| 線(スティック) | ゼロから値までの長さ。棒の代用 |
| 円(キャンディ) | 値の位置。読むべきは円の中心 |
Highcharts の公式ドキュメントも、よくある誤読を先に潰しています。値は棒の端ではなく、点の中心である、と。
デザイン上の注意点
- ゼロ基準を守る。 棒グラフと同じ制約です。
- 円は小さく。 Cairo も Few も、大きい円は精度を落とすと見ています。
- 線は円より薄く。 Cotgreave 自身、線と円を同じ濃度にすると円が負ける、と Part two で書いています。
- 並べ替える。 2011年のコメントで Naomi Robbins 系の指摘が出ています。アルファベット順はまれにしか最適ではない。
- 近い値の比較には棒を残す。 Tableau 公式(2017)も、未ソートで長さが近いときはロリポップのほうが比べにくい、としています。
実用例
1. Cotgreave 2011:顧客満足度(高い値が並ぶ)
最初の公開例は、Tableau の顧客満足度を州×セグメントで並べた図です。作り方は 2011年の Part two に書かれています。オリジナル画像は本人が「もう残っていない」と書いており、下は 2017年の再訪記事 で本人が再掲した図です。値が全体に寄っており、太い棒だとインクが多い、という自分の問題設定そのものです。

Andy Cotgreave, Lollipop charts, revisited(2017) より。本人が「My eyes! They hurt!」と添えた棒グラフ。

同記事 より。同じデータをロリポップにしたもの。本人は「Easy on the eye」と書いています。
2. Washington Post 2013:各国の公的退職年齢
Washington Post は各国の政府退職年齢を、点と線で示しました(Retirement getting further away、Graphic: Tobey)。Andy Kriebel(VizWiz) が 2012年7月にこれをロリポップとして紹介し、Cotgreave の Part two にクレジットを付けています。下に掲載したのは、同紙が 2013年3月19日に出している版です。

The Washington Post, Retirement getting further away(2013) より。Graphic: Tobey。濃い赤が2013年、薄い点が長期の退職年齢。
ただし Kriebel は、同じ紹介記事 で重要な留保を書いています。図の軸は 60歳から始まっている。ゼロまでスティックを伸ばすと、マルタとオーストリアの差が「5倍」に見えてしまう。ゼロから始まらないならスティックは外し、ドットプロットにせよ、という指摘です。実際この図は、2点を線で結ぶレンジプロット/ダンベルに近い使い方でもあります。ジャーナリズムで「ロリポップに見える図」でも、Cleveland の条件(ゼロ基準があるか)を満たしていないことがあります。
3. The Guardian 2012:運動不足の国
2012年7月18日、Guardian Data Blog は The Lancet のデータで「最も身体活動が少ない国」を Tableau Public で示しました。Which are the laziest countries on earth? が元記事です。Ben Jones はこれを Cotgreave 流のロリポップと見なし、インクが多すぎると判断してドットプロットに組み替えています。普及の早さと、直後から「棒の代替としていつも良いか」が争点になったことが、この一件にまとまっています。当時の Tableau 埋め込みは、いまは図として保存しにくい状態です。
4. ツールへの実装(Highcharts)
Highcharts は専用シリーズ lollipop を持ち、公式デモ の用途説明は Cotgreave とほぼ同じです。値がレンジの上限付近に寄っているとき、モアレを避け、見た目の攻撃性を下げる。作り方は Lollipop series のドキュメント にあります。ggplot2 では geom_segment() + geom_point()、または ggalt::geom_lollipop() が定番です。Rudis のパッケージ文書は、2011年の Cotgreave を作成者として明示しています。

Highcharts, Lollipop series デモ より。公式の説明は「円が値で、線は軸まで伸びる柱グラフの変種」。
代替例
| チャート | 使うとき |
|---|---|
| 棒グラフ | ゼロ基準の量比較が本筋で、本数が多くない |
| Cleveland ドットプロット | 非ゼロ基準、または点の位置だけを読ませたい |
| レンジプロット/ダンベル | 2点の差を見せたい(前年と今年など) |
| 細い棒グラフ | インクを減らしたいが、円の不正確さは避けたい |
ロリポップは「分布のドットプロット」ではなく、棒グラフ側の親戚です。2点間の差を線で結ぶ図は、レンジプロットの領域です。
まとめ
ロリポップチャートは、新しい量の符号化というより、棒グラフの見た目を削るための妥協です。
- Cleveland(1984–85)は、ゼロ基準があるなら点まで線を止めてよい、と書いた。
- Cotgreave(2011)はそれにキャンディ状の円を重ね、**「値が高い棒が何本も並ぶときの見にくさ」**を解く手法として命名した。
- Cairo はその呼び名を広め、Few は棒グラフより不正確だと批判した。
使うなら、本人が設定した問題に戻るのがいちばん安全です。値が高く、棒が長く、インクが多すぎる。そのときに限って、棒の代替として検討する。軸がゼロから始まらないなら、名前がロリポップでも、中身はドットプロットに戻した方がよい、というのが一次情報から出る実務上の結論です。
参考・出典
- Andy Cotgreave, “Lollipop charts: part two” (2011-03-17)
- Andy Cotgreave, “Lollipop charts, revisited” (2017-05-19)
- William S. Cleveland, “Graphical Methods for Data Presentation…” (The American Statistician, 1984)
- Cleveland & McGill, “Graphical Perception…” (Science, 1985)
- Alberto Cairo, The Truthful Art (2016), p.28 付近
- Stephen Few, “Lollipop Charts: ‘Who Loves You, Baby?’” (2017-05-17)
- The Washington Post, “Retirement getting further away” (2013-03-19)
- Andy Kriebel, VizWiz, Washington Post 退職年齢の再現 (2012-07)
- The Guardian, “Which are the laziest countries on earth?” (2012-07-18)
- Ben Jones, “Lazy Countries without the Lollipops” (2012) ※ Part one の特徴リストの引用元
- Tableau, “Viz Variety Show: When to use a lollipop chart…” (2017-01-05)
- Highcharts, Lollipop series
- ggalt::geom_lollipop ヘルプ(Cotgreave 2011 への帰属)
- Data Viz Project, Lollipop Chart
