円グラフ(Pie Chart)は、全体に対する各部分の割合を円の扇形(スライス)で表現するグラフです。全体を100%または1として扱い、カテゴリごとの比率を視覚的に示します。一般的に単一のカテゴリ変数の構成比を表示する際に用いられます。データの構成比を直感的に把握しやすい一方で、比較精度が低いことから使用には注意が必要です。
歴史的経緯
円グラフは、スコットランドの経済学者ウィリアム・プレイフェア(William Playfair)によって1801年に初めて紹介されました。彼の著書『Statistical Breviary』では、トルコ帝国の領地分布を示すために円グラフが使用されました。19世紀末から20世紀初頭にかけて、フローレンス・ナイチンゲールなどの社会改革者によって応用され、統計図表としての普及が進みました。
データ構造
円グラフで使用されるデータは、1つのカテゴリ変数とその各カテゴリに対応する数値(頻度または割合)で構成されます。各スライスの角度は、値を全体の合計に対する割合として計算した結果に比例します。
| カテゴリ | 値 |
|---|---|
| A | 30 |
| B | 50 |
| C | 20 |
この例では、A, B, Cの3カテゴリの割合が円周360度に対してそれぞれ108°, 180°, 72°に割り当てられます。
目的
円グラフの目的は、構成比やシェアの分布を視覚的に理解することです。特に「どの要素が最も大きいか」「全体に対して各要素がどれくらいの割合を占めるか」を直感的に伝えるのに適しています。
ユースケース
- 市場シェアの構成比(例:各企業の占有率)
- 予算の配分割合
- アンケート結果の構成(例:「はい」「いいえ」「わからない」などの回答比)
特徴
- 全体を「1つの円(100%)」として視覚化
- 各要素の比率を面積と角度で示す
- 数値よりも構成の感覚的把握に向く
- カテゴリ数が多い場合や差が小さい場合には不向き
チャートの見方
各スライスの大きさは、そのカテゴリの比率を表しています。最も大きなスライスは主要カテゴリを、最も小さなスライスは副次的なカテゴリを示します。凡例またはラベルでカテゴリ名を確認しながら、全体構成を理解します。
円グラフでは、各スライスの 角度 がデータの割合を表します。たとえば全体が100人で、そのうち40人がA、30人がB、30人がCのグループに属している場合、Aは円の40%、つまり144°(360°×0.4)の角度を持ちます。スライスの 面積や色 を通じて、視覚的に構成比を直感的に比較できるのが特徴です。
多くの場合、スライスには 凡例 や ラベル が添えられ、カテゴリー名や比率(%)が明記されます。
また、強調したい項目を 少し外に引き出す(explode) ことで視覚的なアクセントをつけることもあります。
デザイン上の注意点
ただし、円グラフは視覚的には印象的ですが、角度の比較が難しいため、数値の差が小さい場合には棒グラフなど他の可視化手法の方が有効です。特にカテゴリー数が多い場合や、差異を精確に比較する目的では適しません。
- スライスの順序は意味的・数値的に整理する(例:降順や論理順)
- カテゴリ数は多くても6〜7程度に抑える
- 類似色やグラデーションを避け、明確に区別できる色を使用する
- ラベルを円内に配置する場合は重ならないよう注意する
- 合計100%でないデータには使用しない
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| スライスの数 | 多すぎると識別が困難(通常5〜7カテゴリ以内が望ましい) |
| ラベル | パーセント表示や凡例を明確に配置する |
| 色使い | 類似色を避け、コントラストを確保する |
| 並び順 | 値の大きい順や時計回りの順序で配置すると理解しやすい |
応用例
- ドーナツチャート(Donut Chart):中央をくり抜くことで複数系列を扱いやすくした変種
- ナイチンゲール・ローズ図(Coxcomb Chart):円グラフを放射方向の値変化として拡張したもの
- 3D円グラフ:視覚的効果を強調するが、正確な比較には不向き
代替例
- 棒グラフ(Bar Chart):構成比の正確な比較が可能
- ツリーマップ(Treemap):階層構造をもつ構成比を表現できる
- ドットプロットや100%積み上げ棒グラフ:比率の差を定量的に把握可能
まとめ
円グラフは、データの構成比を視覚的に伝える上で最も広く知られたチャートの一つです。直感的に理解しやすい反面、定量的な比較には不向きな側面があります。データの特性や目的に応じて、より精度の高い代替グラフと使い分けることが望まれます。