Polarisは、多次元データベースに対する探索的分析を支援するために提案された、可視化とクエリを統合的に扱うシステムおよびその形式言語です。2000年代初頭、スタンフォード大学で Chris Stolte と Pat Hanrahan を中心に研究され、その成果は後に Tableau の中核思想として結実しました。
Polarisの最大の特徴は、「可視化を行うこと」そのものを、データベースに対する宣言的なクエリとして定義した点にあります。単なるグラフ描画ツールではなく、分析・集計・視覚表現を一体として扱う枠組みを提示したことが、本研究の本質です。
公式論文(2008年 CACM版)の位置づけ
Polarisを一般向けに理解するうえで最も適しているのが、2008年に Communications of the ACM に掲載された論文
「Polaris: A System for Query, Analysis, and Visualization of Multidimensional Databases」です。
この論文は、2002年にIEEE TVCGで発表された学術論文を基礎としつつ、その後の実運用(Tableauとしての商用化)を踏まえて内容が整理されています。理論の厳密さよりも、問題意識・設計思想・実用上の意義が明確に説明されており、研究者以外にも理解しやすい構成になっています。
Polarisが解決しようとした課題
当時の多次元データ分析には、以下のような課題がありました。
| 課題 | 従来の問題点 |
|---|---|
| 探索的分析 | 仮説変更のたびにSQLやグラフ設定をやり直す必要があった |
| 可視化の柔軟性 | 用意されたチャート種類に分析が制約されていた |
| 分析と表示の分断 | 集計ロジックと表示ロジックが別々に扱われていた |
Polarisは、これらを「可視化=クエリ」という統一的な考え方で解決しようとしました。
中核概念1:可視化を記述する形式言語
Polarisでは、可視化は形式言語によって厳密に定義されます。具体的には、
- 行・列・レイヤーからなる「表構造」
- 順序尺度・量的尺度といったデータ型
- マーク(点・線・矩形など)と視覚変数(色・大きさ等)
これらを組み合わせることで、可視化仕様が定義されます。この仕様は、そのままデータベースクエリ(SQLに相当)と描画命令の両方にコンパイルされます。

中核概念2:表(table)を中心とした多次元表現
Polarisでは、単一のグラフではなく「表」を基本単位として可視化を構成します。行・列・レイヤーに異なるディメンションを割り当てることで、小さなグラフ(small multiples)を体系的に生成できます。
この考え方は、後のTableauにおける Rows / Columns / Pages / Marks といったUI構造にそのまま引き継がれています。

中核概念3:チャートは選ぶものではなく導かれるもの
Polarisでは、「棒グラフ」「散布図」といったチャート名を直接指定しません。代わりに、
- 軸に割り当てたデータの型(順序 × 量、量 × 量など)
- 使用するマークの種類
から、結果として適切なグラフ表現が自動的に決まります。この考え方は、後に Show Me(自動チャート推薦機能)として発展しました。

2002年版Polaris論文との関係
2002年にIEEE TVCGで発表された論文は、Polarisの理論的起点です。table algebra(表を生成するための代数)などの形式的定義は、こちらの論文で最も厳密に述べられています。
一方、2008年CACM版は、それらの理論を背景に持ちながら、
- なぜこの仕組みが必要だったのか
- 実際の分析でどのように役立ったのか
- 商用化を通じて何が検証されたのか
を説明する「総括・普及版」として位置づけられます。
Tableauへの継承
Polarisの研究成果は、そのままTableauの基盤技術へとつながりました。
| Polarisでの概念 | Tableauでの姿 |
|---|---|
| 可視化クエリ言語 | VizQL |
| 表構造による多次元表現 | Rows / Columns / Pages |
| 軸とマークによる自動決定 | Show Me |
| 良いデフォルトの重視 | 初心者でも破綻しにくい操作性 |
この流れを見ると、TableauはPolarisの思想を実務レベルまで磨き上げた存在であることがわかります。
論文では、ソフトウェア解析のケーススタディとして複数ビューを組み合わせた分析例も示されています。

