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擬似連続カルトグラム(Pseudo-Continuous Cartogram)

擬似連続カルトグラム(Pseudo-Continuous Cartogram)は、地理的な地域を円や四角形、六角形などの幾何図形に置き換え、その面積をデータ変数に比例させて表現する地図手法です。ドーリング・カルトグラム(Dorling Cartogram)やデマーズ・カルトグラム(Demers Cartogram)とも呼ばれ、元の地域の形状を完全に捨象する代わりに、データの定量的な比較を容易にします。図形は元の地理的位置関係をおおまかに保つように配置されます。

歴史的経緯

擬似連続カルトグラムの代表的な手法は、1996年にイギリスの地理学者Daniel Dorlingによって提案されました。Dorlingは、連続的カルトグラムにおける形状の歪みや、非連続的カルトグラムにおける隣接関係の喪失といった課題に対し、まったく異なるアプローチを取りました。地域の形状そのものを放棄し、円という最もシンプルな幾何図形に置き換えることで、データの比較に特化した表現を実現したのです。

Dorlingの手法では、各地域を円で表し、円の面積をデータに比例させます。円同士が重ならないように物理シミュレーション(力指向アルゴリズム)を用いて配置を調整し、元の地理的位置関係をできるだけ維持します。

その後、Demersによる変形版(Demers Cartogram)が登場しました。Demers Cartogramは円の代わりに正方形を使用し、より整然とした見た目を実現します。正方形はタイル状に並べやすいため、ラベルの配置も容易になるという実用的な利点があります。

近年では、六角形を用いたバリエーションも登場しており、幾何図形の選択肢は広がっています。

データ構造

擬似連続カルトグラムに必要なデータ構造は以下のとおりです。

データ種別内容形式例
地域識別子各地域を一意に特定するコードや名称ISO 3166コード, 都道府県コード
重心座標各地域の代表点の位置(初期配置に使用)緯度・経度
統計データ図形の面積を決定する数値データ人口, メダル数, GDPなど
カテゴリデータ(任意)色分けに使用するカテゴリ変数政党, 地域区分など

元の地域の境界ポリゴンデータは必須ではありません。重心座標と統計データがあれば基本的な生成が可能です。ただし、地理的位置関係を正確に反映するためには、元の境界情報を参照して配置を最適化することが望ましいです。

目的

擬似連続カルトグラムの主な目的は、地理的な文脈を維持しながら、データの定量的な比較を容易にすることです。通常の地図や連続的カルトグラムでは、地域の複雑な形状が値の大小の比較を困難にすることがあります。擬似連続カルトグラムは、すべての地域を同じ種類の幾何図形(円や四角形)で表すことで、面積の比較を直感的に行えるようにします。

また、地図上の地域が複雑な形状や入り組んだ境界を持つ場合でも、シンプルな図形に置き換えることで、見た目がすっきりとし、情報の伝達効率が向上します。

ユースケース

  • オリンピックのメダル獲得数を国別に円の大きさで表現(New York Timesの事例が有名)
  • 各国の人口規模を円の大きさで比較する世界地図
  • 選挙結果における各州の票数を四角形の大きさで表現
  • 感染症の国別感染者数の分布比較
  • 各都道府県の特定産業の生産額比較
  • 企業の支店数や売上高の地域分布

特徴

  • 地域の形状を完全に捨象し、幾何図形に置き換えるため、データの定量的な比較がしやすくなります。円や四角形の面積比較は、歪んだポリゴンの面積比較よりも直感的です。
  • 元の地理的位置関係をおおまかに保つため、どの図形がどの地域を表しているかをある程度推測できます。
  • 地域の形状情報が完全に失われるため、「どの国か」「どの県か」を図形の形状から判断することはできません。ラベルが不可欠です。
  • 力指向アルゴリズムによる配置最適化が必要で、地域数が多い場合は計算時間がかかることがあります。
  • 円を使うDorling型と四角形を使うDemers型では、見た目の印象と情報の読み取りやすさが異なります。

チャートの見方

擬似連続カルトグラムでは、各幾何図形(円や四角形)が一つの地域を表し、その面積がデータ値に比例しています。大きい図形はデータ値が大きい地域、小さい図形はデータ値が小さい地域です。

図形の配置は元の地理的位置関係をおおまかに反映していますが、正確な位置や隣接関係を読み取ることはできません。各図形にはラベルが付与されていることが多いため、ラベルを手がかりに地域を特定します。

色が使用されている場合は、面積とは異なる変数(カテゴリ、別の統計量など)を表していることが一般的です。凡例を確認して、面積と色がそれぞれ何を意味しているかを把握します。

デザイン上の注意点

  • 各図形に地域名のラベルを付与することが必須です。幾何図形だけでは地域の特定ができないため、ラベルなしでは意味が伝わりません。
  • 円を使う場合は、重なりを防ぐための配置アルゴリズムの調整が重要です。重なりが生じると面積の比較が困難になります。
  • 四角形を使う場合は、ラベルを図形内に配置しやすいという利点を活かし、視認性の高いデザインにします。
  • 色を併用する際は、面積(量的変数)と色(カテゴリ変数または別の量的変数)の関係を凡例で明示します。
  • 非常に小さい値を持つ地域の図形が見えなくならないように、最小サイズを設定します。
  • 地理的位置関係のおおまかな維持を優先するか、図形同士の重なりの排除を優先するか、目的に応じてバランスを調整します。

応用例

  • New York Timesのオリンピック報道では、各国のメダル獲得数をDorling Cartogramで表現し、大きな注目を集めました。国の地理的位置を保ちながら、メダル数を円の面積で直感的に比較できるデザインです。
  • イギリスの選挙報道では、選挙区ごとの票数をDorling Cartogramで可視化し、地理的面積に惑わされない選挙結果の把握を可能にしています。
  • D3.jsにはDorling CartogramやDemers Cartogramを生成するためのライブラリが存在し、Webブラウザ上でインタラクティブな擬似連続カルトグラムを構築できます。
  • 公衆衛生の分野では、感染症の国別データをDorling Cartogramで表現し、地理的面積の大きい国に視覚が引きずられることなく、感染者数の実態を伝える手法として活用されています。

代替例

  • 連続的カルトグラム(Continuous Cartogram):地域の隣接関係を維持しながら面積を変形します。地理的文脈の保持を重視する場合に適していますが、形状の歪みが生じます。
  • 非連続的カルトグラム(Non-Continuous Cartogram):各地域の元の形状を保持しながら独立にスケーリングします。形状による地域識別が可能ですが、隣接関係は失われます。
  • グリッド・カルトグラム(Gridded Cartogram):各地域を均等なグリッドセルで表現します。すべての地域が同じサイズになるため、色による値の表現が主体になります。
  • バブルマップ(Bubble Map):通常の地図上にデータに比例した円を配置します。地理的正確性を完全に保持しますが、地域の重なりが生じやすくなります。

まとめ

擬似連続カルトグラムは、Daniel Dorlingの1996年の提案に始まる、地理的な地域を幾何図形に置き換えてデータを表現する手法です。円を使うDorling型、四角形を使うDemers型など複数のバリエーションがあり、いずれも地域の形状を捨象する代わりに、データの定量的な比較を容易にすることを目指しています。オリンピック報道や選挙報道など、値の大小を直感的に伝えたい場面で効果を発揮します。ラベルの付与が不可欠であること、配置アルゴリズムの調整が必要であることなど、設計上の留意点を踏まえた上で活用することが重要です。

参考・出典

1
- [Cartogram - Wikipedia](https://en.wikipedia.org/wiki/Cartogram)
Licensed under CC BY-NC-SA 4.0
Apr 08, 2026 12:19 +0900