レーダー・チャート(Radar Chart)は、多次元データを視覚的に比較するためのチャートで、複数の変数を放射状に配置し、それぞれの値を線や面で結んで多角形として表現します。スパイダー・チャート(Spider Chart)、ウェブ・チャート(Web Chart)とも呼ばれます。特に、個人や製品、組織などの複数の属性や能力を比較するときに有効です。軸が放射状に広がることで、複雑な関係性を一目で把握できる点が特徴です。

歴史的経緯
レーダー・チャートの起源は、19世紀後半の統計図表学にあります。初期の形式は1877年にAndré-Michel Guerryによって提案され、1900年にはKarl Pearsonが生物統計の可視化に使用しました。第二次世界大戦後には、軍事・工業・教育分野などで性能評価の手法として普及しました。コンピュータ時代に入ると、ExcelやTableau、Python(matplotlib、Plotlyなど)などのツールで容易に作成できるようになりました。
データ構造
レーダー・チャートは、1つの観測対象に対して複数の変数を同一スケールで表示します。典型的なデータ構造は次のようになります。
| 変数 | 値 |
|---|---|
| Speed | 7 |
| Power | 8 |
| Agility | 6 |
| Intelligence | 9 |
| Endurance | 5 |
各変数は同一の中心点から放射される軸上に配置され、値に応じた距離でプロットされます。スケールの一貫性が重要で、通常は0〜10や0〜100などの統一された範囲で表されます。
目的
レーダー・チャートの主な目的は、複数の属性を同時に比較・評価し、全体的なパターンを視覚的に把握することです。特に以下の目的に適しています。
- 個人や製品の特性のバランスを可視化する
- 複数の対象を同一条件下で比較する
- 時系列的な変化を多角的に示す
ユースケース
- ビジネス:ブランド評価、製品性能比較、顧客満足度分析
- 教育:生徒のスキルプロファイル表示
- スポーツ:選手能力の比較(例:サッカー選手のポジションごとの能力)
- UX評価:各要素(使いやすさ、魅力、信頼性など)のバランス分析
特徴
レーダー・チャートには以下のような特徴があります。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 多次元表示 | 複数の変数を一つの図形で同時に表現 |
| 対称性 | バランスや偏りを直感的に理解可能 |
| 比較性 | 複数対象を重ねて比較可能 |
| 制約 | 変数が多すぎると可読性が低下する |
チャートの見方
中心点から外側に向かう各軸が変数を示し、距離が値の大きさを表します。多角形の形が丸く均等であればバランスが取れていることを意味し、特定の方向に突出していればその変数が優れていることを示します。複数の多角形を重ねることで、対象間の特徴差を視覚的に比較できます。
| 要素 | 説明 |
|---|---|
| 軸(Axes) | 各軸は異なる変数を表す。例:製品の性能指標(速度、精度、価格、耐久性など)。 |
| 中心点 | すべての軸が交わる中心点は、最小値(または0)を示す。 |
| スケール | 軸上の目盛りは値の範囲を示す。すべての軸でスケールが一致している必要がある。 |
| 多角形(Polygon) | 各データ系列を結んだ線。形状の違いから強みや弱みを一目で把握できる。 |
| 塗りつぶし(Fill Area) | 面を塗ることで、比較を視覚的に強調できる。重なり部分の透明度調整も重要。 |
例えば、5つの性能指標をもつ製品AとBを比較する場合、製品Aのレーダー形状がより外側に広がっていれば、総合的に性能が高いことを示します。一方、特定の軸だけ突出している場合は、その要素が強みであることを示唆します。
デザイン上の注意点
- 軸数は5〜8程度が適当(多すぎると判読困難)
- スケールは全変数で統一する
- 軸ラベルは短く明快にする
- 塗りつぶしや線の透明度を調整し、重なりを見やすくする
- 中心点が0値を示すことを明確にする
レーダー・チャートは、もともと心理学やスポーツ科学などで人物やチームの特性を多次元的に評価するために使われてきました。現在では、マーケティングや製品比較、ビジネス戦略分析など幅広い分野で利用されています。
しかし、軸が多すぎると見づらくなり、またスケールの不一致や変数の単位が異なる場合は誤解を生む恐れがあります。そのため、使用する際は軸の順序やスケールを慎重に設計する必要があります。特に視覚的バランスを取るためには、軸の配置順が比較結果に与える影響にも注意を払うことが重要です。
応用例
- 多軸評価レポート:社員評価や企業診断などのビジュアルレポートに利用
- 時系列比較:同一対象の異なる時期を比較するアニメーション化
- インタラクティブ可視化:PlotlyやD3.jsを用いた動的なレーダー・チャートで、ユーザーが変数を選択可能にする
代替例
- Parallel Coordinates(平行座標プロット):多数の変数を直線上に表現できる
- Radar Area Chart:面積を強調するバリエーション
- Bar Chart(棒グラフ):軸方向に制約のない定量比較
- Spider Web Chart:見た目は似ているが、カテゴリー型のデータに特化
まとめ
レーダー・チャートは、多変量データを直感的に比較するのに適した可視化手法です。中心からの距離で各項目の強弱を示し、全体の形状で傾向を読み取ることができます。ただし、軸の数や順序、スケール設計を誤ると誤解を招くため、慎重な設計が必要です。適切に設計されたレーダー・チャートは、ビジネス評価からスポーツ分析まで、幅広い分野で「全体像をひと目で伝える」強力な手段となります。
