レーダー・チャート(radar chart、スパイダーチャート、蜘蛛の巣グラフとも呼ばれる)は、複数の項目を同時に比較するための可視化手法です。 中心から放射状に伸びる複数の軸に値をプロットし、隣り合う点を線で結ぶことで多角形が描かれます。
- 用途:学生の成績、製品比較、能力評価など
- 特徴:項目間のバランスや偏りを「形」として直感的に把握できる
日本の統計局の解説でも、「項目数に応じた正多角形を想定し、中心から外に向かって値をプロットする」と説明されています。値が大きいほど外側に、値が小さいほど内側に配置され、複数の対象を重ねることで比較が容易になります。

レーダー・チャートの弱点
一方で、レーダー・チャートには批判も少なくありません。代表的な問題点は以下のとおりです。
- 半径方向の距離比較が難しい …人間は共通の基準線に対する垂直・水平の比較は得意ですが、放射方向の距離差を正確に読むのは苦手です。
- 面積や形のバイアス …多角形の「面積」や「形状」が視覚的に印象を強めるため、実際の数値差以上に誇張される場合があります。
- 軸順序の恣意性 …軸を並べる順番によって形が大きく変わるため、グラフ作成者の意図が読み手の印象に強く影響します。
- 比較対象や項目数の制限 …多くの対象や項目を扱うと線や面が重なり、判読困難になります。
Michael Correll のコラム「Bad Ideas in Visualization」では、レーダー・チャートは「形として読んでしまう誘惑が強く、しかもその形が軸順に依存するため誤解を招きやすい」と批判されています。
平行座標(Parallel Coordinates)という代替

そこでしばしば比較されるのが、**平行座標プロット(parallel coordinates plot, PCP)**です。これは複数の変数を平行な縦軸に並べ、各データを線でつなぐ手法です。
ブログ Dueling Data では次のように述べられています:
「レーダー・チャートは見た目は面白いが、各スポーク上の長さを比較するのは難しい。一方で平行座標では、すべての変数が共通の基準軸を持つため、比較が容易である。」
つまり、レーダー・チャートが放射方向に散らばる軸をもつのに対し、平行座標はすべての変数を縦に並べるため、「共通スケール上での比較」がやりやすいというわけです。
研究的な裏付け
学術研究でも、両者の可読性比較が行われています。 たとえば P-Lite: A study of parallel coordinate plot literacy では、レーダー・チャート・平行座標・散布図などを対象にユーザ実験が行われました。結果は一概に「どちらが常に優れている」とは言えませんが、平行座標の方が高次元データを扱いやすく、正確な読み取りが可能になる場面があると報告されています。
レーダー・チャートの大衆性 vs 平行座標の専門性
ここまで見てきたように、レーダー・チャートには可読性や正確性の問題点が多く指摘されています。それでもなお、平行座標プロットよりもはるかに一般的に知られ、使われているのはなぜでしょうか。
1. 直感的な「形」の力
レーダー・チャートは、複数の値を多角形として一望できるため、凹凸や偏りを感覚的に把握できます。人間は数値よりも「形」で情報を捉える傾向が強く、プレゼンや教育の場では特に効果的に働きます。
2. メディアと文化での定着
スポーツ雑誌やゲーム(選手能力の五角形グラフ)、教育用統計教材などを通じて、一般層が自然に触れる機会が多くありました。そのため「能力比較=レーダー・チャート」という認知が文化的に広がっています。
3. ツールでの利用の容易さ
ExcelやGoogleスプレッドシートといった一般的な表計算ソフトにレーダー・チャートが標準搭載されており、誰でも簡単に作成できます。一方、平行座標プロットはRやPython、専用可視化ツールを使わないと描けず、普及のハードルが高いのが現状です。
4. 学習コストの違い
平行座標は軸が並列に並び、データが線として交差します。慣れていない人には「ごちゃごちゃしている」と見えてしまい、理解にはある程度のデータリテラシーが求められます。レーダー・チャートは一方で「形」として直感的に伝わるため、非専門家にも抵抗が少なく、実務や教育で採用されやすいのです。
まとめ:使い分けの視点
「レーダー・チャートより平行座標の方が読みやすい」とする意見は確かに存在し、専門家の批評や研究によって裏付けられています。 しかし同時に、平行座標にも「線が交錯して読みにくい」「軸の順序で印象が変わる」といった弱点があります。
したがって結論は単純ではなく、以下のように整理できます。
- レーダー・チャート:比較対象や項目が少なく、「バランス」を直感的に見せたいときに有効
- 平行座標:項目数やデータ数が多く、正確な比較やパターン探索をしたいときに有効
可視化は「どちらが正しいか」ではなく「誰に」「どんな目的で」見せるかによって選び分けることが重要です。