Rearrangeable 3D Bar Chart は、10か国・10年の失業率を表した物理的な3D棒グラフです。国ごとの2D棒グラフが1枚ずつの部品になっていて、抜き差しできます。使う人は部品を手で動かして、国の並べ替え、抜き出し、重ねての比較を行えます。
作者は Yvonne Jansen(イヴォンヌ・ジャンセン)と Pierre Dragicevic(ピエール・ドラギチェヴィッチ)で、当時は Inria の AVIZ チームにいました。作品は、2人の論文 “An Interaction Model for Visualizations Beyond The Desktop”(IEEE TVCG、2013)で、8つのケーススタディの一つとして紹介されています。データ物理化の事例集 dataphys.org には、2012年の事例として載っています。以下は、この論文と dataphys.org の項目に沿います。
10枚の2D棒グラフを、1台に並べる
dataphys.org の項目は、この作品を1文で説明しています。
A modular physical visualization like this rearrangeable 3D bar chart allows people to sort, filter, compare and examine data by direct physical manipulation.
部品に分かれた物理可視化なら、手で直接動かして、並べ替え、絞り込み、比較、観察ができる、という説明です。項目を追加したのは Dragicevic で、分類は電子部品を持たない「Passive physical visualization」です。
論文によれば、表しているのは “unemployment rates over 10 years for 10 countries”、10か国の10年分の失業率です。10か国×10年なので、棒は計算上100本になります。部品はデータからレーザーカッターで自動的に切り出し、塗装と組み立ては手で行いました。

Yvonne Jansen・Pierre Dragicevic/dataphys.org「2012 – Rearrangeable 3D Bar Chart」より引用
左の写真では、指で青い列を引き上げています。右では、ピンクの列が1枚、丸ごと抜き出されています。列ごとに色が違い、手前の赤い台座には「2001」から始まる年のラベルが並びます。色や台座の意味は論文に書かれておらず、ここまでは写真からの読みです。データと物の対応を表にまとめます。
| データ | 物の性質 | 根拠 |
|---|---|---|
| 失業率(量) | 棒の高さ | 論文。目盛りの値や縮尺は不明 |
| 国(10か国) | 奥行き方向の列。1か国が抜き差しできる1枚の部品 | 論文 |
| 年(10年) | 各列の中の、棒の横の並び。部品の中で固定 | 10年は論文。並び方は写真からの読み |
| 国の並び順 | データが決めない。手で変えられる | 論文 |
| 国の区別 | 列ごとの色 | 写真からの読み |
| 年のラベル | 手前の台座 | 写真からの読み |
論文は作り方の出典として、同じ著者たちの CHI 2013 の論文を挙げています。その論文の物理3D棒グラフと評価実験は、別の記事「画面の3D棒グラフより速く、2Dには届かない」で扱いました。二つが同じ物か、同じ作り方の別の個体かは、確かめられませんでした。素材や寸法も、この作品については確認できていません。
抜き出して、離して、重ねる
論文は、この棒グラフでできる操作を2段に分けます。一つ目は、チャートを回す、指でデータの点を押さえる、といった見え方を変える操作です。二つ目が、部品を動かす操作です。
Each country is a 2D bar chart that can be taken out and manipulated separately. This simple design choice enables a user to perform a range of additional tasks (2): she can sort countries, filter them out by moving them away, or compare countries by superimposing them.
国ごとの2D棒グラフを抜き出し、別々に扱える。この単純な設計の選択で、国の並べ替え、離して置くことでの絞り込み、重ねての比較ができる、という要旨です。論文はこれを、サンゴの3Dプリント模型を画面操作の道具として使う、一体の模型の例と対比しています。

Yvonne Jansen・Pierre Dragicevic/“An Interaction Model for Visualizations Beyond The Desktop”(IEEE TVCG, 2013)Fig. 9 より引用
図9の右側は、論文のモデルでこの操作を描いた図式です。(1) の矢印には「rotate & mark」、(2) には「sort & filter」と付いています。
論文の言葉では、絞り込みは部品を「離して置く」ことで、比較は「重ねる」ことです。ここでの絞り込みは、データを消す処理ではなく、部品を視野から外すことだと読めます。どちらも、データそのものには手を付けていない、と読めます。
並べ替えは「空いている変数」を書き換える
論文の中心は、可視化のパイプラインのモデルです。生データが図になり、物として現れ、人に読まれるまでを段に分けています。並べ替えの説明で鍵になるのが、free visual variables(自由視覚変数)です。
We call those free visual variables, to contrast them with encoding visual variables that are constrained by the visual mapping.
データとの対応づけに縛られた視覚変数に対して、縛られていないものを自由視覚変数と呼ぶ、という定義です。論文の例では、箱ひげ図という対応づけは、箱を左右のどこに置くかを決めていません。
自由視覚変数は、表示の割り当て(presentation mapping)の段で決まります。読みやすくなるように割り当てることを、論文は最適化(optimization)と呼び、箱ひげ図を参加者 ID 順に並べる例を挙げます。一律の処理を局所的に上書きする操作も区別していて、グラフのノードを手で動かすのは最適化の上書きだとしています。そのうえで、この棒グラフについてこう書きます。
rearranging the visualization amounts to modifying free visual variables at the presentation mapping level, or more specifically, performing optimization overriding operations.
並べ替えは、表示の割り当ての段で自由視覚変数を変えることで、より細かく言えば最適化を上書きする操作だ、という要旨です。
国の並び順は、もともとデータが決めていない変数です。並べ替えても、失業率の値も棒の高さも変わりません。変わるのは置き方だけです。この作品は、空いている変数を部品の形にして、使う人の手に渡した、と読めます。一方、年の並びは各部品の中に固定されていて、手では変えられません。これは論文に明記がなく、構造からの読みです。
画面なら別々の道具、手なら一つの動作
論文は画面との違いを、こう書いています。
Such operations are supported through true direct manipulation and are very versatile. In contrast, on a desktop system these tasks would typically be considered separately and supported by different instruments.
こうした操作は真の直接操作で支えられ、用途が広い。画面なら、これらの作業は別々の道具で支えられるだろう、という要旨です。論文の言う instrument(道具)は、人と可視化を仲立ちするもので、並べ替えのボタンや絞り込みのスライダーがこれに当たります。この棒グラフでは、どの作業も、部品をつまんで動かす一つの動作で済みます。作業ごとに道具を増やさなくてよい、と読めます。
同じ論文は、手の操作の限界も結論部に書いています。
Still we will always need instrumental operations as those allow to carry out complex tasks that have no real world counterpart (e.g., automatic sorting, brushing & linking).
自動の並べ替えやブラッシング&リンキングのように、現実に対応する動作がない作業には、道具を介した操作がいつまでも要る、という要旨です。論文は別の箇所で、行列の並べ替えのように手では複雑すぎる、繰り返しが多すぎる作業は、コンピュータに任せるほうが役に立つとも書いています。
もう一つの限界は、データとのつながりです。論文は、印刷物や3D造形を one-shot propagation(一度きりの伝達)の例に挙げます。作った後で元データが変わっても、形は更新されません。この棒グラフも “semi-automatic one-shot propagation” で作られた、と書かれています。
第三者はこの作品をどう見たか
評価は、分け方の意味、使う人のためらい、機械による組み替えの三つに分かれます。
一つ目は、H. Djavaherpour(ジャヴァヘルプール)らが2021年に EuroVis で発表した、物理化の制作工程のサーベイです。
the way in which a physicalization is designed to be assembled can determine what types of interactions end-users can have with its represented data.
どう組み立てるように設計するかで、使う人がデータに対してできる操作の種類が決まる、という指摘です。サーベイは続けて、Jansen らの組み立て式3D棒グラフがもし接着されていたら、ここまで深くデータに関われなかったと書きます。ただしサーベイが引いているのは CHI 2013 の論文で、本作品と同じ物かは確かめられていません。ただし共著者に Jansen が入っていて、完全な第三者ではありません。
二つ目は、LMU ミュンヘンの Simon Stusak(シュトゥザク)です。別のグループが、層を分けて並べ替えや絞り込みをねらった物理可視化を作りました。2013年のポスターは、層ごとに回せる模型では、似たものを集められるのは時間の軸に沿ってだけで、層の中の値は並べ替えられないと書いています。2016年の博士論文では、面ファスナーで部品をつなぐモジュール版を作り、固定版と比べました。
Four participants did not disassemble the modular physical visualization, two because it seemed impractical, two because of fear to break something.
4人はモジュール版を分解しなかった。2人は面倒に思えたから、2人は壊すのが怖かったから、という観察です。分解しようとして部品を壊した参加者も1人いました。対象は Jansen らの棒グラフではありませんが、抜き差しできることと、実際に抜き差ししてもらえることは別だ、と読めます。
三つ目は、Faisal Taher(ターヘル)らの EMERGE です。10×10 の棒を電動で上下させる物理棒グラフで、2015年の論文は、受動的な物理可視化の欠点を、動かず、一度作るとデータ源から切り離されることだとしています。IEEE VIS 2016 の論文では、発表の場面で行や列を入れ替え、手の込んだ見せ方を組み立てた参加者もいたと報告しています。どちらも Jansen が共著者です。
使い道
同じグループは2015年の論文 “Opportunities and Challenges for Data Physicalization” で、組み替えの自由度についてこう書いています。
However, limited reconfigurability can be desirable. Information as to which states and operations are meaningful can be conveyed as physical constraints
組み替えを限ることが望ましい場合もあり、どの状態や操作に意味があるかを物理的な制約で伝えられる、という要旨です。この作品から持ち帰れることは、この一節と重なります。
一つ目は、部品の分け目を、許したい操作から決めることです。この棒グラフは国のあいだで分けたので、国の順は変えられ、年の順は守られます。分け目の位置が、許す操作と許さない操作を同時に決めている、と読めます。接着するか、抜き差しにするか、はめ込みにするかも、同じ判断の一部です。
二つ目は、並べ替えをデータの変更と分けて考えることです。論文の整理では、並べ替えは自由視覚変数の上書きで、値は一つも変わりません。画面でも、並び順をデータが決めない変数として扱えば、行をドラッグで動かすような操作を無理なく足せる、と読めます。
三つ目は、抜き差しのしやすさまで設計に入れることです。Stusak の観察では、壊すのが怖くて分解しない人がいました。抜いてよいと分かる形、戻しやすい形が要ります。
四つ目は、手に任せない操作を見極めることです。10か国なら手で並べ替えられても、行が増えれば計算に任せるほうがよい。一度作ればデータが更新されない点も、物理化を選ぶ前に考えておく価値があります。
参考・出典
一次情報
- dataphys.org, “2012 – Rearrangeable 3D Bar Chart”(Added by Pierre Dragicevic):https://dataphys.org/list/rearrangeable-3d-bar-chart/
- Yvonne Jansen, Pierre Dragicevic, “An Interaction Model for Visualizations Beyond The Desktop,” IEEE TVCG 19(12): 2396–2405, 2013. doi:10.1109/TVCG.2013.134 / 読んだ本文(ミラー):https://typeset.io/pdf/an-interaction-model-for-visualizations-beyond-the-desktop-3p3eh2iru9.pdf / HAL(筆者は未確認):https://hal.science/hal-00847218 / 著者ページ(筆者は接続できず):http://www.aviz.fr/beyond
- dataphys.org, “2012 – Putting Physical Visualizations to the Test”:https://dataphys.org/list/testing-physical-visualizations/
- Yvonne Jansen, Pierre Dragicevic, Petra Isenberg, Jason Alexander, Abhijit Karnik, Johan Kildal, Sriram Subramanian, Kasper Hornbæk, “Opportunities and Challenges for Data Physicalization,” CHI ‘15, pp. 3227–3236:https://eprints.lancs.ac.uk/id/eprint/72691/1/OA_2015_04_CHI_DataPhys.pdf
- Yvonne Jansen, Pierre Dragicevic, Jean-Daniel Fekete, “Evaluating the Efficiency of Physical Visualizations,” CHI ‘13, pp. 2593–2602(作り方の出典として論文が挙げるもの。筆者は本文未読):https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-00781831
第三者評価
- H. Djavaherpour, F. Samavati, A. Mahdavi-Amiri, F. Yazdanbakhsh, S. Huron, R. Levy, Y. Jansen, L. Oehlberg, “Data to Physicalization: A Survey of the Physical Rendering Process,” Computer Graphics Forum 40(3), 2021(EuroVis STAR):https://arxiv.org/pdf/2102.11175
- Simon Stusak, Aurélien Tabard, Andreas Butz, “Can Physical Visualizations Support Analytical Tasks?” IEEE VIS 2013 poster:https://www.medien.ifi.lmu.de/pubdb/publications/pub/stusak2013visPoster/stusak2013visPoster.pdf
- Simon Stusak, Exploring the Potential of Physical Visualizations, Dissertation, LMU München, 2016:https://edoc.ub.uni-muenchen.de/20190/1/Stusak_Simon.pdf
- Faisal Taher, John Hardy, Abhijit Karnik, Christian Weichel, Yvonne Jansen, Kasper Hornbæk, Jason Alexander, “Exploring Interactions with Physically Dynamic Bar Charts,” CHI ‘15:https://www.kasperhornbaek.dk/papers/CHI2015_Emerge.pdf
- Faisal Taher, Yvonne Jansen, Jonathan Woodruff, John Hardy, Kasper Hornbæk, Jason Alexander, “Investigating the Use of a Dynamic Physical Bar Chart for Data Exploration and Presentation,” IEEE TVCG 23(1), 2017:https://yvonnejansen.fr/articles/VIS2016%20-%20Investigating%20the%20Use%20of%20a%20Dynamic%20Physical%20Bar%20Chart%20for%20Data%20Exploration%20and%20Presentation.pdf



