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住民100人が、舞台の上で円グラフになる──Rimini Protokoll『100% City』

Rimini Protokoll の『100% City』は、都市の人口の1%を住民1人に置き換える演劇です。住民は問いへの答えに応じて舞台を移動し、人の体で円グラフをつくります。

目次
  1. 012008年、劇場の100年を祝う企画から始まる
  2. 021人を1%にして、24時間の連鎖で100人を集める
  3. 03札の下へ歩き、円グラフになる
  4. 042013年、『100%トーキョー』
  5. 05第三者はこの作品をどう見たか
  6. 06使い道
  7. 07参考・出典

Rimini Protokoll(リミニ・プロトコル)の『100% City』は、都市の人口の1%を住民1人に置き換える演劇です。舞台には、その都市の統計に合わせて集めた住民100人が立ちます。住民は問いへの答えに応じて舞台上を移動し、観客の前で人の体による円グラフをつくります。

作者は Helgard Haug(ヘルガルト・ハウグ)、Stefan Kaegi(シュテファン・ケーギ)、Daniel Wetzel(ダニエル・ヴェッツェル)の3人です。初演は2008年2月1日、ベルリンの HAU 1 での『100% Berlin』でした。その後、都市ごとに作り直して各地で上演され、日本では2013年に『100%トーキョー』が上演されています。以下は、公式ページ、作者のインタビュー、F/T の当日パンフレット、劇評と論文に沿います。

2008年、劇場の100年を祝う企画から始まる

『100% Berlin』は、ベルリンの Hebbel Theater の開館100年を祝う企画として作られました。副題は「A Statistical Chain Reaction(統計の連鎖反応)」です。上演は2008年2月1〜3日と5月16〜18日、HAU 1 でした。

巡回する予定はなかった、と Haug は2018年のインタビューで振り返っています。

In the beginning, the show was not intended to be a touring project. … finally, we realised the potential of “working locally but comparing globally”

はじめは巡回公演のつもりはなかった。最後には「地元で作り、世界で比べる」ことの可能性に気づいた、という言葉です。上演した都市の数は、資料によって違います。

時点書かれている数出典
2013年「欧・豪・北米で10カ所以上」桂真菜、F/T13 当日パンフレット
2013年7月「nearly 20 cities」Peter Crawley、The Irish Times
2015年「23 cities」Contemporary Theatre Review
2018年2月「34 different cities」Haug、LitNet のインタビュー
2020年「over 40 cities」HAU「100% Berlin reloaded」
2024年「41 Städten」Anja Quickert の論文
2026年11月閲覧「more than 35 cities」Rimini Protokoll 公式「100% City」
2026年11月、筆者が数えた数都市40(2008年 Berlin〜2026年 Oulu)公式「100% City」の上演一覧

最後の行は、公式一覧の42件から、Berlin reloaded(2020年の再演)と Uni Marburg(2027年予定の大学版)を除いた数です。

ツアー資料によれば、上演時間は110分で、直径10m以上の電動回転舞台が要ります。地元のチームが4〜5か月かけて配役し、通常3回上演します。

© Nurith Wagner-Strauss/Rimini Protokoll「100% Vienna」より引用

作者自身の文章は、書籍『Making with Data』(Huron・Nagel・Oehlberg・Willett 編、A K Peters/CRC Press、2022)にも載っています。書籍サイトの構成ページによれば、2つ目の部「Participation」に、Cairn、SeeBoat、Let’s Play with Data に続く4本目として章「100% [City]」が入っています(章2.4、pp. 147–162、doi:10.1201/9781003264903-9)。章の本文は読めていないので、中身はここでは扱いません。

1人を1%にして、24時間の連鎖で100人を集める

舞台の1人は、その都市の人口の1%を表します。1人が何人ぶんかは都市で変わり、Berlin では約34,000人、Vienna では約16,935人、Melbourne では約41,000人でした。

100人の集め方には決まりがあります。Berlin 初演では、演出側が選んだのは1人目だけでした。その人が24時間以内に、知り合いから次の1人を紹介し、これを100人まで続けます。Stellenbosch では、地域の隔たりが大きいため、連鎖を3本並行して走らせました。1人目には、統計局の長や統計の研究者が選ばれた都市もあります。

作者側は、国勢調査の5つの基準で枠を作ると説明しています。年齢、性別、地区、出生地または出身、世帯規模または婚姻状態です。初演の台本では、婚姻状態は未婚46人、既婚39人、死別6人、離別9人でした。

基準のほかに、隠れた条件もあります。Melbourne では、学歴、所得、先住民、性的指向など8つの条件が加えられました。作者は2015年の対談で、俳優や演劇好きが国勢調査の比率(1〜2%)を超えないようにした、とも話しています。

枠が埋まるほど、人探しは難しくなります。公式の Berlin のページは、終わりに近づくほど次の「鎖の輪」を探すのが難しくなったと書いています。London では37人目の時点で、パキスタン系の人が一人もいないと分かりました(The Guardian、2012)。鎖が切れたときは、地域の団体や学校、高齢者施設をあたり、新聞に広告を出します。作者はこの苦労を舞台でも語ると言います。

On stage we address the struggle to find people because it tells us something about the city, too.

人探しの苦労も、その都市について何かを語るからだ、という言葉です。

© Maja Nydal Eriksen/Rimini Protokoll「100% Copenhagen」より引用

上演の冒頭では、紹介された順に一人ずつマイクの前に出て、自己紹介をします。舞台に並ぶ順番そのものが、標本を集めた経路になっている、と読めます。

札の下へ歩き、円グラフになる

上演の中心は、二択の問いです。Richard C. Windeyer(リチャード・ウィンデヤー)は、2017年の『100% Montréal』をこう記録しています。

In full view of the audience, each percentile stands beneath one of two placards—“Me/Not Me” and “Moi/Pas moi”— according to their answer for each question.

観客の目の前で、出演者は問いごとに「Me/Not Me」の札のどちらかの下に立つ、という記述です。たとえば「税金を払っていないのは誰か」という問いには、4人が「Me」の側に立ちました。評論家の桂真菜は、2012年の『100% London』で、床の円を直径で左右に分け、Yes なら右、No なら左に歩いたと書いています。

集まった人数が、そのまま割合になります。公式ページは、この場面を次のように書きます。

A series of statistical groupings enacted onstage, like a giant pie chart brought to life.

統計の分類を次々と舞台で演じる、生きた巨大な円グラフのよう、という説明です。作者は2015年の対談で、二択の答えを「pie-chart」に変え、政治的な議論のきっかけにすると話しています。

© Pigi Psimenou/Rimini Protokoll「100% Melbourne」より引用

舞台には、真上から撮る映像も重なります。Windeyer の『100% Montréal』の記録によれば、床に置いた緑の台を真上のカメラで撮り、映像処理で緑の部分を、放射状のグラフや散布図、地区の地図に置き換えて、円形のスクリーンに映していました。

Like in a Petri dish, you can look at how the individuals are moving and forming majorities and minorities.

Haug はこの映像をシャーレにたとえ、個人が動いて多数派と少数派をつくる様子が見える、と話しています。

© Nurith Wagner-Strauss/Rimini Protokoll「100% Vienna」より引用

人前では答えにくい問いには、別の方法を使います。照明を落とし、各自が懐中電灯を掲げます。光の点の数が、該当する人数です。『100% Montréal』で同じ「税金を払っていないのは誰か」を暗がりで問うと、十数本の灯りがともりました。明るい舞台で「Me」に立ったのは4人でした。Windeyer はこの映像を「luminous scatterplot of anonymized confession(匿名の告白の、光る散布図)」と書いています。London では、月収3,000ポンド以上の人が携帯電話の画面を光らせました。

対応を表にまとめます。

データ舞台での表し方出典
都市の人口舞台に立つ100人。1人が人口の1%公式各ページ
人口構成(5つの基準)配役の人数。各分類の人数がその割合公式各ページ、CTR 2015
標本の集め方登場の順番。紹介された順に自己紹介するHaug 2018、Windeyer 2018
二択の問いへの答え立ち位置。「Me / Not Me」の札の側、または円の右と左Windeyer 2018、桂 2013
答えの割合集まった人の数。真上から見ると扇形の固まり公式 Melbourne、CTR 2015
図表としての読み緑の床を、円グラフ、散布図、地区の地図に置き換えた映像Windeyer 2018
人前で言いにくい答え暗がりで掲げる懐中電灯や携帯電話の光の数Windeyer 2018、The Guardian 2012

表にすると、対応は三つの段に分かれて見えます。 配役の段で割合を人数に変え、上演中に答えを立ち位置と人の固まりに変え、映像でその固まりを図表として読ませる、という段です。最後の段があるので、同じ体が「人」と「データ点」の両方に見える、と読めます。

2013年、『100%トーキョー』

フェスティバル/トーキョー13の演目として、2013年11月29日〜12月1日に東京芸術劇場プレイハウスで上演されました。演出はダニエル・ヴェッツェル、上演は日本語です。

F/T の紹介文は、作品を「東京の人口統計に基づいて集められた100人の市民への、ライブ意識調査演劇」と書いています。100人は「東京23区に住む9055257人の『標準』を体現する」とされました。1人は約90,553人にあたります。公式の英語ページは、こう書きます。

this cross-section of the society could tell the truth of modern Tokyo life in a way graphs or pie-charts never could.

社会のこの断面は、グラフや円グラフにはできない形で、現代の東京の暮らしの真実を語りうる、という一文です。

統計アドバイザーは中村和幸です。中村はパンフレットのインタビューで、項目を「調べられるかどうか」で選んだと話しています。スマートフォンの普及率は「普及」の定義が決めにくいので採らず、学歴は「無回答」が多いので採らなかった。そのうえで、統計学の観点からは100人ではサンプル数が足りない、とも述べています。

桂真菜の寄稿によれば、23区の住民の3%が外国人なので、100人のうち3人が外国人です。その内訳は「韓国人、中国人、その他」が1%ずつでした。桂は東京版を「都市をテーマに置くシリーズのアジア初演」と書いています。公式一覧に載る日本の都市は、Tokyo だけです。

第三者はこの作品をどう見たか

Eddie Paterson(エディ・パターソン)は、2016年の論文 “Bodies of Data” で『100% Melbourne』を論じました。シャーレの映像は、国勢調査の数字、舞台の体、細胞のような群れのあいだを行き来する、尺度の表現だと読んでいます。一方で、作品は国勢調査の格子をなぞっているとも書きます。

by staging official population data onstage, Rimini’s performance visualises the grid-logic of the State.

公式の人口データを舞台に載せることで、作品は国家の格子の論理を可視化している、という指摘です。会場の近くには路上生活者が集まる場所があるのに、舞台に路上生活者はいなかった、と Paterson は記しています。

Windeyer は、データの真実性を問いました。『100% Montréal』では「今夜うそをついたのは誰か」という問いに、十数人が手を挙げました。答えそのものが信用できないなら、統計の真実性はどう保証されるのか、という問いです。先住民は人口の1%に満たないため専用の枠がつかず、舞台に見えなかったとも記録しています。

The Irish Times の劇評で、Peter Crawley(ピーター・クローリー)は演出の技法を楽しみつつ、形式の変わらなさを批判しました。メッセージも論評もなく、問いがあるだけ。形式は5年と20近い都市で磨かれ、Dresden でも Tokyo でもほとんど変わらない、という評です。Cork では、裕福な地区や大きなポーランド系のコミュニティから参加者を得られなかった、とも書いています。

Douglas Eacho(ダグラス・イーコー)は2018年の論文の要旨で、作品を19世紀の統計的理性への郷愁と読み、ビッグデータによるアルゴリズム的な数え方と対比しています。本文は未読です。

使い道

持ち帰れることの一つ目は、1つのマークに1人の顔をつけることです。舞台の扇形は人の固まりで、その一人ひとりが冒頭で名乗っています。作者側は、観客が都市全体よりも、数人の答えの連なりを追うと話しています。集計と個人を同じ画面で見せる設計は、人を扱う可視化でも試せます。

次に、標本の作り方を見せることです。『100% City』では、24時間の連鎖も、見つからなかった人も、上演の一部として語られます。可視化でも、どこから集めた数か、誰が欠けているかを、図の近くに置けます。

三つ目は、答え方を変えると数が変わることです。Montréal では、明るい舞台で4人だった答えが、暗がりでは十数人になりました。2つの数からは、調査の方法も結果の一部だと読めます。

最後に、図にできないものを数えておくことです。中村和幸は、調べられる項目だけを選び、100人ではサンプルが足りないと述べました。Paterson と Windeyer は、舞台にいない人を指摘しました。何を数え、何を数えなかったかを書き添えることが、人の体を使った図を読む手がかりになる、と読めます。

参考・出典

一次情報

  • Rimini Protokoll「100% City」(概要と上演一覧):https://www.rimini-protokoll.de/website/en/projects/100-stadt-7-1
  • Rimini Protokoll「100% CITY」ツアー資料 PDF:https://www.rimini-protokoll.de/website/media/Touringportfolios/Portfolio_100%25.pdf
  • Rimini Protokoll「100% Berlin」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-prozent-berlin
  • Rimini Protokoll「100% Berlin reloaded」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-berlin-reloaded
  • Rimini Protokoll「100% Vienna」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-prozent-wien
  • Rimini Protokoll「100% Melbourne」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-percent-melbourne (メイキング映像:https://vimeo.com/53318534 )
  • Rimini Protokoll「100% Copenhagen」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-kopenhagen
  • Rimini Protokoll「100% London」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-london
  • Rimini Protokoll「100% Tokyo」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-tokyo
  • Rimini Protokoll「100% Montréal」:https://www.rimini-protokoll.de/website/en/project/100-montreal (記録映像:https://vimeo.com/224155970 )
  • Helgard Haug のインタビュー「100% Stellenbosch: A whole town on a stage」LitNet、2018-02-23(RP 転載):https://www.rimini-protokoll.de/website/en/text/100-stellenbosch-a-whole-town-on-a-stage
  • Rimini Protokoll と Daniel Koczy の対談「’…faces behind the numbers’」Contemporary Theatre Review、2015:https://contemporarytheatrereview.org/2015/rimini-protokoll-100-percent-city/
  • Haug・Kaegi のインタビュー「Tableaux vivants」Goethe-Institut Kanada、2017(RP 転載):https://www.rimini-protokoll.de/website/en/text/tableaux-vivants
  • HAU Hebbel am Ufer「100% Berlin reloaded」:https://www.hebbel-am-ufer.de/en/programme/pdetail/rimini-protokoll-haug-kaegi-wetzel-100-berlin-reloaded/
  • フェスティバル/トーキョー13『100%トーキョー』プログラムページ:https://www.festival-tokyo.jp/13/program/13/100percent_tokyo/
  • 同 当日パンフレット PDF(中村和幸のインタビュー、桂真菜の寄稿を含む):https://www.festival-tokyo.jp/13/program/13/pdf/FT13_TP_100%25tokyo_web.pdf
  • Rimini Protokoll, “100% [City],” in Huron, Nagel, Oehlberg, Willett (eds.), Making with Data: Physical Design and Craft in a Data-Driven World, A K Peters/CRC Press, 2022, ch. 2.4, pp. 147–162(章の本文は未確認):https://doi.org/10.1201/9781003264903-9
  • Making with Data「Structure」(書籍の部と章の構成):https://makingwithdata.org/blog/structure
  • dataphys.org「2008 – 100% City」:https://dataphys.org/list/100-city/

第三者評価

  • Eddie Paterson, “Bodies of Data: Informatics in Contemporary Performance,” Performance Paradigm 12, 2016:https://performanceparadigm.net/index.php/journal/article/download/178/174
  • Richard C. Windeyer, “Petri Dish Deceptions: The Search for 100% Veracity in Rimini Protokoll’s Statistical Portrait of Montreal,” Canadian Theatre Review, 2018(RP 転載):https://www.rimini-protokoll.de/website/en/text/petri-dish-deceptions-the-search-for-100-veracity-in-rimini-protokoll-s-statistical-portrait-of-montreal
  • Peter Crawley, “Cork’s vital statistics,” The Irish Times, 2013-07-02(RP 転載):https://www.rimini-protokoll.de/website/en/text/cork-s-vital-statistics-1
  • Sarfraz Manzoor, “100% London tells the capital’s story through its inhabitants,” The Guardian, 2012(RP 転載):https://www.rimini-protokoll.de/website/en/text/100-london-tells-the-capital-s-story-through-its-inhabitants
  • Douglas Eacho, “Serial Nostalgia: Rimini Protokoll’s 100% City and the Numbers We No Longer Are,” Theatre Research International 43(2), 2018, pp. 185–200(要旨のみ確認). doi:10.1017/S0307883318000299 / https://www.cambridge.org/core/journals/theatre-research-international/article/abs/serial-nostalgia-rimini-protokolls-100-city-and-the-numbers-we-no-longer-are/DA0D36242D6CB84BE8C8789935EAB8D6
  • Anja Quickert, “Theatrale Feldforschungen: Welt,” in Struktur und Ästhetik, Narr Francke Attempto, 2024, pp. 149–176:https://www.rimini-protokoll.de/website/media/100prozent/strukturundaesthetik_Anja%20Quickert.pdf
矢崎裕一 データ可視化の実務家
プロフィール

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