The Telegraph(テレグラフ)は、男女の格差を示す図で、ピンクと青をやめ、参政権運動の紫と緑を使いました。どちらの性にどちらを当てるかは、白地での見え方で決め、白地で緑より目立つ紫を女性に割り当てました。この配色のインタラクティブ記事「Born Equal. Treated Unequally.」は、2018年3月8日、国際女性デーに公開されました。
Telegraph の記事本体は購読者向けで、筆者は読めていません。以下の図の中身は、二つの資料を通したものです。本作を図4.6に載せた Catherine D’Ignazio(キャサリン・ディグナツィオ)と Lauren F. Klein(ローレン・F・クライン)の『Data Feminism』(2020)第4章と、色を決めた Fraser Lyness(フレイザー・ライネス)に質問した Datawrapper のブログ記事(2018年7月10日)です。
2018年3月8日、国際女性デーの記事
『Data Feminism』によると、2018年3月、Telegraph の Lifestyle Desk の記者たちは、国際女性デーをどう記念するかを考えていました。目に留まったのが、教育・政治・ビジネス・文化にわたる英国の男女格差でした。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 題 | “Born Equal. Treated Unequally.”(Datawrapper は “Born equal. Treated unequally”) | 『Data Feminism』注48、Datawrapper |
| 公開日 | 2018年3月8日 | 『Data Feminism』注48 |
| 本文の筆者 | Claire Cohen、Patrick Scott、Ellie Kempster | 同上 |
| 制作クレジット | 上の3人と Richard Moynihan、Oliver Edgington、Dario Verrengia、Fraser Lyness、George Ioakeimidis、Jamie Johnson | 『Data Feminism』図4.6 |
| 色を決めた人 | Fraser Lyness(Director of Graphic Journalism)とそのチーム | Datawrapper |
記事の URL には “women-mean-business-interactive” とあります。Telegraph の Jamie Johnson は2018年10月の記事で、同社が国際女性デーに、女性の起業を後押しするキャンペーン “Women Mean Business” を始めたと書いています。同じ記事は、2018年を参政権100年を祝う年とも書きます。ただ、本作をその100年に合わせて作ったと書く資料は見つかっていません。
『Data Feminism』によると、記者たちが使った他の機関のデータは、どれも男女の二値で来ていました。区分は変えられません。変えられたのは、色でした。
参政権運動の紫と緑を借りる
男女を分けるいちばん手早い色は、ピンクと青です。Datawrapper の記事で Lisa Charlotte Muth(リサ・シャルロッテ・ムート)は、FT の Alan Smith(アラン・スミス)のコラム「Chart Doctor」を引きます(元のコラムは未読で、Datawrapper の記事が引く文で確かめました)。Smith は、色と性の結びつきが強いので凡例が要らず、図がすっきりすると考えて、ピンクと青を使ったと書いていました。Muth は、ピンクと青は性の固定観念を後押しし、格差の図ではとくに逆効果だと書きます。
『Data Feminism』も同じ点を突きます。
“Pink and blue is, after all, another hierarchy, and the goal of the Telegraph team members was to mitigate inequality, not reinforce it.”
ピンクと青も一つの階層で、チームの目的は不平等を和らげることだった、という意味です。
チームが選んだのは紫と緑でした。Lyness の説明では、20世紀初めの英国の “Votes for Women” キャンペーンの色です。
“At the heart of this movement were “Sylvia Pankhurst and Emmeline Pethick-Lawrence and essentially the colors were their choice (apparently symbolizing; purple for freedom and dignity, white for purity, green for hope).””
中心にいた Sylvia Pankhurst と Emmeline Pethick-Lawrence が選んだ色で、紫は自由と尊厳、白は純潔、緑は希望を表すとされる、という説明です。性別に使ったのは、このうち紫と緑です。

Lisa Charlotte Muth/Datawrapper Blog より引用
Lyness は、参政権運動への参照が「決め手になった」と話しています。
“Having a reference to the suffrage movement helped seal the deal”
ピンクと青を使わないと性別がすぐ分からない点にも、異論は出なかったといいます。むしろピンクと青のほうが、伝えたいことを損なうと皆が感じた、と Lyness は答えています。
白地で目立つ紫を、少ない側に
紫と緑の組は、意味で選んだものです。では、紫をどちらに当てるか。Lyness の答えはこうです。
“Against white, purple registers with far greater contrast and so should attract more attention when putting alongside the green, not by much but just enough to tip the scales. In a lot of the visualisations men largely outnumber women, so it was a fairly simple method of bringing them back into focus.”
白地では紫のほうがずっと強いコントラストになり、緑と並べると注意を引く。差は大きくないが、天秤を傾けるには足りる。多くの図で男性が女性を大きく上回るので、女性に焦点を戻す簡単な方法だった、という説明です。Lyness はその前に、女性を優先しようとした、とも言っています。
コントラストは「far greater」でも、注意を引く効果は「not by much」です。目立たせる効果は控えめでよく、天秤が少し傾けば足りる、という考え方と読めます。
Datawrapper は、この効果がよく見える図として次の画像を載せています。

The Telegraph/Datawrapper Blog より引用
ヘッダーには「Women Mean Business」「ENGLISH HERITAGE BLUE PLAQUES」とあります。ブルー・プラーク884枚のうち、男性が757枚、女性が127枚です。画像を測ると、円の面積の比は枚数の比(約6倍)に近いと読めます。これが本作のどの部分かは、Datawrapper は書いていません。
『Data Feminism』の図4.6は、FTSE 100 の CEO を人型のアイコンで並べ、紫と緑で塗り分けた図です。添えた文は「Just six of FTSE 100 CEOs are women」です。
出典の記事名のない紫と緑の図も、もう1枚あります。

The Telegraph/Datawrapper Blog より引用
全企業の時給の中央値の男女差を、企業数の分布で示した図です。凡例は「Women trail men」が緑、「Women lead men」が紫です。色は性別でなく格差の向きを表していますが、少ない側を紫にする考えは同じだと読めます。Datawrapper は、同じ配色が2018年3月22日の賃金格差の記事(有料)でも使われたと書いています。
| データ | 見た目 | 具体 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 性別 | 色相 | 女性=紫、男性=緑 | Datawrapper、『Data Feminism』 |
| CEO の男女 | 人型アイコン | 紫と緑、凡例 “Men / Women” | 『Data Feminism』図4.6 |
| プラークの枚数 | 円の大きさ | 男性757(緑)、女性127(紫) | Datawrapper の画像 |
| 賃金格差の向き | 棒の色 | 下回る=緑、上回る=紫 | Datawrapper の画像 |
| 色の値 | ― | 未確認 | ― |
ほかの報道機関は何色を使ったか
Muth の記事は、FT の John Burn-Murdoch(ジョン・バーン=マードック)のツイートを広げたものだと、Datawrapper の記事が書いています(ツイートは未読)。英国の賃金格差データを各社が何色で報じたかを、並べたツイートでした。
| 区分 | 例(Datawrapper の記事による) |
|---|---|
| ピンクと青(赤と青) | NYT(2015、2017)、Bloomberg(2016)、WSJ(2016)、Daily Mail(2018)、ZEIT(2016、2018)、The Pudding の映画の2作(2017) |
| ほかの色 | Economist、Guardian、FT、Telegraph、Bloomberg(いずれも2018)、Morgenpost(2017)、Washington Post(2017)、BBC(2017、2018)など |
| 社内で不統一 | Bloomberg の2018年の4本は記事ごとに別の色。Quartz はピンクと青の割り当てが記事で入れ替わる |
The Pudding の別の作品は、同じ特集の Women’s Pockets の記事で読みます。

各社の図/Lisa Charlotte Muth(Datawrapper Blog)より引用
Muth は、Economist、Guardian、Telegraph、Washington Post などが、女性に男性より寒色を当てたと書き、「You can’t go further away from the norm」と評しました。一方で、Quartz のように割り当てを入れ替えるのは危ういとします。読者はピンクと青を見ると凡例を確かめないので、女性のほうが恵まれていると読まれかねない、という指摘です。
第三者はこの配色をどう見たか
一つ目の Muth は、理由を言葉にできたことを評価します。Lyness は美しい2色を選んだだけでなく、その理由を説明できた、と書き、節の題を「How to choose colors: The Telegraph case」としました。
二つ目の『Data Feminism』は、作り手がデータの集め方を選べず、二値のデータを内側から「ハック」するしかない場面の例として、本作を挙げます。
“Here, one hierarchy—the hierarchy in which colors are perceived by the eye—was employed to challenge another one: the hierarchy of gender.”
目に見える色の階層を、性の階層に挑むために使った、という評価です。ただし同書は、もう一歩進められたとも書きます。
“They had an opportunity to communicate to the public that gender is not a binary by spelling that out—in the text of the story or in a caption under the graphics or by showing visually that there was no data for nonbinary people.”
本文か、図の説明か、非二値の人のデータがないことを見せる図で、性は二値でないと伝えられた、という批判です。
対比に挙がるのが、Guardian の “Does the New Congress Reflect You?”(2018)です。区分は cis male、cis female、trans + nonbinary の三つで、trans + nonbinary を選ぶと全選挙区が灰色になり、「0 people in Congress are like you」と出ます。同書は、データがないこと自体が大事な結論になると書きます。同じ節は続けて、性そのものをどう描くかに進み、Scientific American の Amanda Montañez(アマンダ・モンタニェス)の図を取り上げます(Beyond XX and XY の記事)。
三つ目は研究の側です。Cabric らは2024年、2012〜2022年のジェンダーの可視化を分析した論文で、紫や緑のような代わりの配色は「remain uncommon」、まだ珍しいと書きました。Telegraph の名は出さず、Muth の記事を通しての言及です。色をやめ、ラベルや位置で区別する道も挙げています。
使い道
持ち帰れる判断は、四つあります。
一つ目は、色を選ぶ理由と、割り当てる理由を分けることです。組を意味で、割り当てを見え方で決め、理由が二つあったから、凡例の要らないピンクと青を捨てる判断を社内で通せたと読めます。
二つ目は、目立つ色を少ない側に当てることです。地の色との輝度差は、色のコントラストの記事で扱う WCAG の比や APCA のような指標で比べられます。ただし、これらは文字の読みやすさの指標で、注意の引きやすさそのものを測るものではありません。効果は「not by much」で足りる、というのが Lyness の言葉です。
三つ目は、媒体の中で割り当てを固定することです。Quartz のように入れ替えると、逆の意味で読まれます。
四つ目は、色を替えても区分は替わらないと覚えておくことです。二値のデータしかないなら、本文や説明文でその限界を書けます。Guardian のように、データがないことを図で見せる道もあります。
参考・出典
一次情報
- Claire Cohen, Patrick Scott, Ellie Kempster ほか, “Born Equal. Treated Unequally.,” The Telegraph, 2018-03-08(購読者向け、筆者は未読). 記事
- Fraser Lyness の発言(Lisa Charlotte Muth の Datawrapper の記事内). 記事
- Jamie Johnson, “Women Mean Business: How the Telegraph’s campaign unfolded,” The Telegraph, 2018-10-31(Yahoo 転載). 記事
- 同じ配色を使った Telegraph の賃金格差の記事, 2018-03-22(購読者向け、筆者は未読). 記事
第三者評価
- Lisa Charlotte Muth(当時は Rost), “An alternative to pink & blue: Colors for gender data,” Datawrapper Blog, 2018-07-10. 記事(旧 URL:https://blog.datawrapper.de/gendercolor/)
- Alan Smith, FT「Chart Doctor」のコラム(ピンクと青の赤ちゃんの名前の図について). Datawrapper の記事内の引用で確認、元記事は未読. Datawrapper の記事
- John Burn-Murdoch のツイート(英国の賃金格差報道で各社が使った色を並べたもの). Datawrapper の記事内の言及で確認、元のツイートは未読. Datawrapper の記事
- Catherine D’Ignazio & Lauren F. Klein, Data Feminism, MIT Press, 2020, ch.4 “What Gets Counted Counts,” pp.111–113, fig.4.6–4.7, notes 48–50(CC BY-NC-ND 4.0). Internet Archive の OA 版
- Sam Morris, Juweek Adolphe, Erum Salam, “Does the New Congress Reflect You?,” The Guardian, 2018(『Data Feminism』の比較例、筆者は未読). 記事
- Cabric, Bjarnadóttir, Ling, Rafnsdóttir, Isenberg, “Eleven Years of Gender Data Visualization: A Step Towards More Inclusive Gender Representation,” IEEE TVCG 30(1):316–326, 2024. doi:10.1109/TVCG.2023.3327369 / arXiv




