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遠い変化を、部屋の壁にする——Giorgia Lupi / Accurat『The Room of Change』

紀元前1000年から西暦2400年までの変化を、壁紙として先に見せる Accurat の『The Room of Change』を、データ可視化とスペキュラティブ・デザインの交差から読む。

Giorgia Lupi が共同創業した Accurat(Giorgia Lupi, Gabriele Rossi, Nicola Guidoboni, Giovanni Magni, Lorenzo Marchionni, Andrea Titton, Alessandro Zotta)による『The Room of Change』(2019)は、第22回トリエンナーレ・ミラノ本展 Broken Nature: Design Takes on Human Survival(キュレーター:Paola Antonelli)の最初の部屋のために委嘱された、約30メートルの手仕事によるデータ・タペストリーです。展覧会公式チェックリストでは4件の特別委嘱のひとつに数えられ、入口で展示全体のトーンを決める役割を担いました。

ここで重要なのは、本作が「正確な科学図」として入口に置かれたわけではない点です。Lupi 側の公式説明は、変化のほとんどが「遠く、高いところから」しか見せられない、という前提から始まります。部屋の中央には NASA の衛星映像が過去20年の地球を上から映し、壁は紀元前1000年から西暦2400年までを横方向に流します。The New York Times は、この先を speculative future(推測的な未来)と呼びました。データ可視化とスペキュラティブ・デザインが交差するのは、この時間の伸ばし方と、スケールの切り替えにおいてです。

三面の壁を取り巻くデータ壁画。中央に凡例の台座

写真はいずれも © La Triennale di Milano — foto Gianluca Di Ioia(制作資料の図は Accurat / Giorgia Lupi)。

部屋の構成

部屋は三つの層でできています。

  1. :手仕事の data tapestry / data-driven wallpaper。左から右へ時間が流れ、過去・現在・未来を覆う。
  2. 正面の大画面2面:NASA の Images of Change。過去20年の、上空から見た地球の変化。NYT が同定した名称です。
  3. 部屋の中央の台座:凡例。Lupi はこれを、山脈を眺めるときの案内図に喩えています。Accurat のケーススタディは、展望台の解説板のように、部屋全体を特権的に見渡す装置だとしています。

NASAの衛星映像と、奥のタペストリー。手前に台座

Pentagram のアーカイブは、壁を取り巻くものを data murals と呼び、8つのマクロ主題がそれぞれ異なる抽象パターンで表されると書いています。Accurat の現行ページは、生物多様性、気候、資源消費、技術進歩といった長期変化を、グローバルとローカルの両方で描いた、と要約しています。

最初に見えるのは、チャートではありません。Lupi はこう書いています。一見しただけでは、モチーフを組織しているのがデータだと気づかないかもしれない、と。Muted な形と線とパターンが NASA 映像の両脇にあり、それが人新世の歴史を覆っているとは、入室時には登録されないかもしれない——Accurat の旧ケーススタディも同じ観察を繰り返しています。壁紙であることが先で、データであることは後です。

NASA画面の一例。上海の都市拡大(1984–2018)と、背後のタペストリー

作品の見方

公式の読み方は、本のように左から右、そして同時に縦、の二方向です。

  1. 横方向は時間です。 左が過去、中央が現在、右が未来。各垂直断面は、ある瞬間を凍らせたスナップショットです。Accurat は、横に読めば人間の相互作用の8つの章、縦に見れば特定年における力の絡み合い、と書いています。一つの関係の「壊れた自然」を修繕するには、触れるもの・触れられるものすべてとの相互作用を見よ、という提案です。

  2. 横縞は、変化の物語です。 各ストライプは一つのストーリーで、その主題の複数データセットが時間とともに変化します。8つのマクロ主題はいずれも人間に関係しますが、帰結はしばしば他種にも同時に及びます。

  3. グローバルな太い線と、ローカルな細い線を重ねて読みます。 世界人口、平均気温、疾患率、エネルギー消費などが「広い筆致」で大規模現象を枠取り、その帰結として個別の物語が置かれます。Lupi が本文で例示しているのは、消えゆくアラル海、カンボジア内戦期の平均寿命の落ち込み、韓国輸出の農産・一次産品からハイテクへの急転換です。

  4. 中央の凡例で、壁を翻訳します。 Nightingale のインタビューで Lupi は、自分をアーティストではなく情報デザイナーと呼ぶ理由を、凡例に置いています。体験を渡すだけでなく、データへのアクセスを渡すこと。パイロットが着陸判断に使う図ではないから、読む時間を要求してよい、と。部屋の中央に凡例を置くことは、その立場の空間化です。

展開した壁面。横が時間、横縞が主題

制作資料の模式図は、三面の壁に時間を割り当てています。左壁が紀元前1000–1900年、正面が1900–2000年、右壁が2000–2400年です。20世紀が正面の一壁を占め、その後の400年が右の一壁です。物理的な幅が、時間の均等割ではないことが、ここで読めます。

三面の壁と時間軸。左 −1000〜1900、中央 1900〜2000、右 2000〜2400

準備スケッチでは、まだマクロ主題は「Humans and nature / Humans / society / Technology / Science / Animals」という人間との関係で仮置きされています。完成形の8主題は、この関係の束を、読める章に切り直したものです。

準備スケッチ。past / present / future と、人間との関係で仮置きされた帯

8つのマクロ主題

凡例が示す完成形は、各マクロ主題の内側に、地理的に特定された1件とグローバルな2件を重ねる、という型です。Accurat のケーススタディが書いていた「one geo-specific issue and two global subjects」と一致します。以下は、公開されている凡例に記された名称です。

8主題と、各3本のストーリー。右が視覚言語のサンプル

マクロ主題地理的に特定された物語グローバルな対象
Natureアラル海の消失人間の環境影響、気候変動
Universe(過去に語られた)未来の予言月食・日食の記録、宇宙探査の達成
Animal Kingdom南米の種の絶滅世界の蜜蜂の減少、牛・鶏の増加
Society(各国の)普通選挙の達成世界人口とその分布、統治形態とテロの増加
Hopeカンボジアの内戦と平均寿命大陸別の死、大陸別の生
Happinessウガンダにおけるうつ病たばこの消費、アルコールの消費
Science(年表としての)化学元素の発見ワクチンと抗生物質、世界の疫病
Technology韓国の技術革命化石燃料の消費、技術へのアクセス

凡例のヘッダは、色のもう一つの軸も説明しています。地理的親和(六大陸)と、文化的親和(ラテンアメリカ、北アフリカと中東など)です。形が主題、色が場所、横が時間、という三重です。

公開凡例。三面の見取り図、色のコード、8主題の読み方

公式ページが data-detail として並べている近景が、凡例の記号が壁の上でどう重なるかです。縦の細線が時間の目盛りになり、色の帯・斜線・短冊が変数になります。離れると壁紙で、近づくとデータです。

data-detail data-detail

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Il Post は開幕時に、八つの視点として「自然、宇宙、動物界、社会、幸福、科学と技術」を括弧書きしました。凡例と照らすと、欠けていたのは Hope です。Elle Decor がキュレーション側の Laura Maeran の案内として伝えた「出生、人々の物語、動物界、希望、幸福」は、Hope と Happiness を別章として置く完成形とつながります。

中央の台座。壁を山脈のように見渡す位置

一次情報から見える制作条件

委嘱の役割は、Broken Nature の主題を、入口のインスタレーションとして文脈化することです。展覧会は restorative design(修復的デザイン)を掲げ、人間と自然環境をつなぐ糸の、ほつれたもの・完全に切れたものを調べます。Antonelli のカタログ結論は NYT が引用しています。「生存の唯一のチャンスは、美しい絶滅を自らデザインすることだ」。壊れたものは元に戻らず、新しいものへ進む。最終なのは絶滅だけだ、と彼女はインタビューで補っています。

タペストリーの時間は、その長い射程に合わせています。Accurat は紀元前1000年〜西暦2400年と明記し、Lupi は「過去何世紀かにどう変わり、いまも変わり、これからもおそらく変わり続けるか」と書いています。likely です。確定予報ではありません。

制作の方法は、意図的に人文的だと Lupi は書いています。データは実生活のスナップショットであり、数字は常に何か別のもののプレースホルダである。主観的な収集と解釈に基づき、人によって意味が違う。より冷たく無菌なデータと、より小さく関係しやすい情報を重ねるほど、意味のある結果になる、と。これはのちの Data Humanism マニフェストと同じ骨格です。Nightingale で彼女は、可視化は現実の単純化ではなく、現実をよりアクセス可能にするものだ、とも述べています。

手仕事であることも方法です。Accurat は、手仕事の物質性が人間の行為の持続的な効果を強化し、生データを感情的な体験へ変える、と書いています。Nightingale で Jason Forrest が Anni Albers(当時テートで展覧中)との類似を問うと、Lupi はこう答えています。タペストリーにする判断は先にあった。ただし縦糸と横糸の重なりは、無意識に影響されたかもしれない、と。織物は装飾ではなく、時間(横)と主題(縦)を同時に読むための構造です。

データ可視化 × スペキュラティブ・デザイン

スペキュラティブ・デザインは、完成解を提示するより、「もしこのままなら」「もし別のスケールで見るなら」という条件を立てて、いま見えていない現実や将来を議論可能にします。本作が自分を speculative とは名乗っていなくても、NYT が未来端をそう呼んだ理由は、データが2400年まで延びているからです。初出は2040年と誤記され、訂正で2400年になりました。400年先と3400年先では、推測の性質が違います。その距離こそが、入口の主張です。

遠い変化を、身体のスケールに戻す。 指導原理は、変化のほとんどが遠く高くからしか示されない、ということです。NASA の20年は「大きなスケール」です。タペストリーは、日常と関係しやすい、より小さく、mundane な変化の物語でそれを補う、と Lupi は書いています。Klat は、この対話を「複雑なデータを、環境劣化を理解する鍵にする」と位置づけ、巨大な変化の根には常に個人の選択がある、と足しています。衛星は被害の画像を渡し、壁は被害の文法を渡します。

壁紙として先に住まわせる。 凡例の前に、模様があります。Accurat は、穏やかな複雑さが探索を誘う、と書いています。これは Data Humanism の「複雑さを引き受けよ」と、Accurat 自身の原則「美は余分ではない」が重なる地点です。美しさは説得の修辞であり、長い時間を部屋のなかで過ごさせる装置です。チャートとして正しいことと、部屋として滞在可能であることは、別の設計問題です。

未来を、予測図ではなくシナリオとして置く。 2400年は、現行軌道の延長です。Lupi の likely は、確定ではなく条件です。Broken Nature 全体が、絶滅を前提にした「より優雅な終わり」と、日常で何ができるかの感覚を同時に求めます。Antonelli は NYT に、市民のための展示だ、長期の感覚と、複雑さは敵ではなく友だという感覚を持って帰ってほしい、とも述べています。タペストリーの右端は、その長期を壁の長さとして物質化しています。Universe の章が「過去に語られた未来」——終末の予言——をデータとして持つことも、ここに重なります。推測そのものの歴史が、推測的未来の隣に並びます。

縦に読むことを、修繕の仮説にする。 横は物語、縦は同時性です。ある年の断面で、人口と気温と疾患と輸出と幸福が同じ壁に並ぶ。一つの指標を直しても、隣の縞は動かないかもしれない。Accurat は、この先の展示作品を「可能な解決」として見る準備をさせる、と書いています。実際、同じ本展には Dunne & Raby の Foragers など、スペキュラティブ・デザインの正典も並びます。入口のタペストリーは、それらの「もし」を受け取るための、長い現在です。

冷たいデータと、誰かの場所を重ねる。 アラル海、カンボジア、韓国、ウガンダ。グローバル指標の「広い筆致」だけでは、数字はプレースホルダのままです。ローカルな一本が、プレースホルダを地点に戻します。不完全さの引き受け方は、欠損の告白ではなく、スケールの併用です。

第三者による評価・評判

公開時の報道は、デザイン/文化メディアが中心です。トーンはほぼ一貫して、「知的/複雑」と「入口で殴られる」の並置です。個別作品の再現精度を検証した評というより、展覧会の導入装置として成立したか、が評価の軸です。

  • The New York Times(2019-03-20, The End Is Nigh. Can Design Save Us?)は、展示は知的だが打撃は強い、人の影響は最初のギャラリーで叩き込まれる、と書いています。NASA の before/after の手前に、色帯と記号の100フィートの壁紙壁画があると記述し、人口・疾患率・エネルギー消費・平均気温の流れだと要約しています。データは紀元前1000年から推測的未来の2400年まで、と明記し、初出の2040年誤記を訂正しています。Antonelli の「長期」「複雑さは友」「日常で何ができるか」という発言も、この部屋の文脈で引かれています。
  • Il Post(2019-02-28)は、展示の野心は最初の作品で分かると書き、見たことのないほど複雑なインフォグラフィックだが、間違いなく最も芸術的なものの一つだ、と評しています。八つのマクロ視点という整理を、イタリア語圏の読者向けに先に言語化した記事でもあります。
  • Cool Hunting は、来館者がテーマの頂点に立ち、心と脳に語りかけ、感情と反省を促す、と入口を要約しています。Gabriele Rossi と Giorgia Lupi の名を出し、グローバル現象とローカルな話題を重ねたグラフィック・タペストリーだと紹介しています。
  • Elle Decor(イタリア版)は、NASA 映像が一種の壁紙になり、最初のエリアで Accurat が過去・現在・未来の多重の変化を視覚的に語る、と案内しています。キュレーション側の言葉として、気候変動の帰結を意識してほしい、ここは出生、人々の物語、動物界、希望、幸福の話だ、と伝えています。
  • Klat の Antonelli インタビュー記事は、NASA の大きな画像と Accurat の可視化の対話として本作を置き、グローバルと個人の関係を描くデータ可視化だとしています。続く解釈(巨大変化の根には個人の選択がある)は評者側の足しです。一次の自己規定より、展示内での機能の読みに近い。
  • Broken Nature 公式の portrait 記事は、ハイパー接続の世界で「変化」を味わうこと、グローバルとローカル、集合と個人の絡みを意味づけることの困難を前提に、その複雑さに Accurat が取り組んだ、と編集者ノートを付けています。来館者をギャラリーへ迎え、展示全体のトーンを設定する、という役割規定は、制作側ではなく展覧会側の言葉です。
  • Nightingale(Data Visualization Society, 2019-08-14)は、NYT の写真を見た Forrest が Albers との関係を一年温めていた、という制作後の専門家コミュニティの受容を残しています。一般紙が「入口の打撃」を書き、可視化の同行者が「凡例と織り」を問う、という分業が、そのまま評判の地図です。
  • IndesignLive は、Neri Oxman の Totems、Sigil の Birdsong、Formafantasma の Ore Streams と並べ、4件の委嘱の一つとして紹介しています。個別の形式批評というより、本展の柱としての認知です。

Accurat 自身は、Cool Hunting、Frieze、Elle Decor、Corriere della Sera、Il Post、Designboom、そして NYT での扱いを、報道の一次リストとして挙げています。Frieze と Designboom の本文は、本稿では直接確認できていません。Corriere の開幕記事は展示全体の理念が中心で、本作を単独評してはいません。

評価の中心は、再現精度の検証というより、「人新世の長期を、部屋として滞在可能にしたか」です。Lupi の仕事はもともと、論文の可視化ではなく、人が数字に関われる状態を設計することにあります。本作もその延長で読んだ方が筋が通っています。

ただし緊張は残ります。Klat が個人の選択へ回収する読みは、Antonelli が言う市民の日常感覚と接続する一方、システム規模の問題を個人の倫理へ圧縮しうる。Accurat が縦読みで求めるのは、その圧縮の拒否——一本の縞ではなく、同時に並ぶ縞です。複雑さを友にする、というキュレーターの言葉は、凡例を中央に置く設計と対になっています。読め、という要求です。単純化ではありません。

まとめ

『The Room of Change』は、気候変動を一枚の正しいグラフに圧縮した作品ではありません。上空の20年壁の3400年を同じ部屋に置き、変化をチャートとして示す前に、壁紙として住まわせます。横は物語、縦は同時性、中央は翻訳。グローバルな太い線は枠で、アラル海やカンボジアや韓国は、数字を地点に戻すための細い線です。

スペキュラティブであることは、未来を描き込んだ装飾ではありません。2400年までを likely として伸ばし、修繕の対象を「一つの関係」から「触れるものすべて」へ開くための条件です。Data Humanism が言う「数字はプレースホルダである」は、ここでは免責ではなく、冷たいデータと関係しやすい物語を重ねる方法です。NASA が見せるのは、すでに起きた地表の差です。タペストリーが見せるのは、その差が、どの主題の、どの年の、どの場所の話として部屋に残るかです。

参考・出典

一次情報

第三者

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テーマ StackJimmy によって設計されています。