地図投影法では、球面の地球を平面上に表現するため、必ずどこかに 歪み(distortion) が生じます。
この歪みを定量的かつ視覚的に示す方法として考案されたのが ティソーの指示楕円(Tissot’s indicatrix) です。
基本原理
フランスの地図学者ニコラ・ティソー(Nicolas Auguste Tissot)は、1871年にこの手法を発表しました。 地球上のある地点を中心に、半径のごく小さな円を多数配置し、それを地図投影によって平面に写したとき、各円がどのように 形を変えるか(楕円に変形するか) を観察します。
もし投影が完全に正確であれば、すべての円は地図上でも円のまま残ります。

しかし実際の投影では、円は楕円や変形した図形になります。

この変形の仕方から、その地点での方位・面積・形状の歪みを知ることができます。
歪みの読み取り方
| 変化の種類 | 意味 | 可視的特徴 |
|---|---|---|
| 形が円のまま | 正角(等角)性を保っている | 角度が正確。メルカトル図法など |
| 円が楕円に変化 | 角度の歪みがある | 方位がずれる |
| 面積が変化 | 等積でない | 円が大きくまたは小さくなる |
| 長軸が一定方向に傾く | 方位歪み(directional distortion) | 縮尺の方向依存性がある |
楕円の 長軸の方向 は、最も大きく伸びた方向(=最大尺度方向)を示します。 短軸方向 は最も縮んだ方向です。また、楕円の大きさは局所的な面積の拡大・縮小を意味します。







可視化の意義
ティソーの指示楕円を用いることで、地図全体の歪み分布を直感的に理解できます。 たとえば:
- 正角図法(メルカトルなど) では楕円の形は円のままだが、極に近づくほどサイズが大きくなる(=面積の誇張)。
- 等積図法(モルワイデなど) では楕円の面積は一定だが、形が横に伸びていく(=形の歪み)。
- 正距方位図法など では、中心から離れるほど楕円が放射状に回転し、方位の歪みが見える。
このように、ティソーの指示楕円は「どの投影法にも共通する歪みの地図」を描くための 評価ツール として利用されます。
応用と現代的利用
ティソーの指示楕円は、今日でも次のような場面で利用されています。
- 地図投影法の評価:GISソフトウェア(QGIS, ArcGISなど)での歪み可視化。
- 教育・可視化デザイン:地球儀から地図への変換を直感的に示す教材。
- Web地図ツールの研究:Mapbox, D3-geoなどでもTissot楕円を表示する機能が存在。
近年では、D3.jsやLeaflet、PythonのCartopyなどで動的に生成し、歪みの比較やアニメーション可視化にも応用されています。
まとめ
ティソーの指示楕円は、地図投影による歪みを「見える化」するための最も基本的かつ普遍的な方法です。
どんな投影法でも、この指標を用いれば「どの場所で、どの方向に、どれだけ歪んでいるか」を同一の尺度で比較できます。
地図を活用する上での 投影法の理解の出発点 となる概念です。
