バンプ・チャート(Bump Chart)は、順位の変化を時系列で示す可視化手法です。縦軸に順位、横軸に時間を置き、カテゴリごとの推移を線で結びます。折れ線グラフが「値の変動」を伝えるのに対し、バンプ・チャートは「相対的な位置付けの入れ替わり」を視覚化することに主眼があります。複数の線が交差することで 「どの対象がいつ上位に食い込み、または下がったか」 を直感的に読み取れる点が特徴です。
起源 ― 19世紀の統計図表
「誰が最初に発明したのか」を一人に帰すのは難しいですが、バンプ・チャートの原型はすでに19世紀に見られます。
米国センサス局の地理学者 Henry Gannett らが編集した1890年版 Statistical Atlas of the United States には、「Rank of States and Territories in Population at Each Census: 1790–1890」 という図版が収録されています。
このチャートは、1790年から1890年までの国勢調査ごとに、各州と準州の人口順位を並べ、線で結んだものです。これにより以下を実現できます。
- ある時点での上位・下位を比較することができる
- さらに個別の州や準州が、時間の経過とともにどのように順位を変えてきたかを追跡できる
当時の目的は、単に人口数を提示するのではなく、「社会の中での相対的な位置の変化」を読み取れるようにすることでした。これは現代でいうバンプ・チャートの基本的な思想と一致しており、この図版はバンプ・チャートの最古級の実例と見なせます。
名称の誕生と再発見
当時は「バンプ・チャート」という名称は存在せず、後にデータ可視化コミュニティで再発見・命名されました。
- 2013年 Datagraver による可視化例が、その後の基盤となりました。
- 2015年〜2016年 Matt Chambers が Tableau Public に発表した Car Color Evolution は Reddit で30万ビュー以上の反響を呼び、モダンな「バンプ・チャート」の代表例として一気に広まりました。
- Rody Zakovich はこの表現をシグモイド曲線などで洗練し、視覚的な見やすさを強化しました。
こうした実践を通じて、「順位の推移を描く線グラフ」が「バンプ・チャート」という呼び方とともに定着したのです。
現代での普及とツール実装
現在、バンプ・チャートは多くの可視化ツールに組み込まれています。
- Datawrapper の公式解説では「順位の変化を示すチャート」として紹介され、ランキングデータに特化した用途を推奨しています。
- Flourish では専用テンプレートが用意され、インタラクティブにハイライトや注釈を加えることが可能です。
- Vega-Lite では rank-transform を利用して順位を生成し、それを折れ線で結ぶ例が公式ドキュメントに掲載されています。
- Malloy などのモダンBI言語でも「時間×順位」を組み合わせた標準的なチャート型として紹介されています。
このように、19世紀に端を発する発想が、21世紀のデータ可視化ツールに正式な「チャート・タイプ」として組み込まれるまでに発展しました。
特徴と活用領域
バンプ・チャートが適しているのは 「相対的な位置の変化そのものがストーリーになる」 ケースです。
- スポーツ リーグ戦の順位推移(シーズンを通じてどのチームが浮き沈みしたか)
- 市場 企業や製品のシェアランキングの変動
- 世論 人気投票やランキング調査の入れ替わり
- 教育・都市 大学ランキングや都市人口順位の長期推移
絶対値よりも「順位の上下動」に意味がある領域で特に有効で、見る人は即座に「勝者と敗者」を把握できます。
まとめ
- バンプ・チャートの思想は 1890年統計アトラスに見られるように、19世紀から存在していた。
- 発明者を一人に特定することはできないが、Henry Gannett らが国勢調査の都市順位を示す中で 「相対的な位置の変化を可視化する」 発想が実践されていた。
- 現代では Matt Chambers や Rody Zakovich の活動を通じて再発見され、「Bump Chart」という呼称とともに普及。
- Datawrapper や Vega-Lite など主要ツールに公式実装され、ランキングのストーリーを伝えるための定番チャートになっている。
バンプ・チャートは、社会の中での位置付けがどう変わったかを描くことができるチャートです。歴史的にも現代的にも「競争と変化」を伝えるのにちょうどいい表現手法の一つと言えるでしょう。
参考リンク
- Statistical Atlas of the United States (1890) – FRASER
- Vintage Visualization Restoration – Bump Chart Edition (Bocoup)
- How To: Using Ranks to Create Bump Charts in Tableau (Matt Chambers)
- Area Bump Chart (Rody Zakovich, Tableau Public)
- How to create a bump chart – Datawrapper Academy
- How to create an area bump chart – Flourish Help Center
- Bump Chart – Vega-Lite Examples
- Bump charts – Malloy Documentation