ハイブ・プロット(Hive Plot)は、ネットワークデータを体系的に整理し、ノード(頂点)をルールに基づいて配置することで、複雑なネットワーク構造を明快に可視化する手法です。ランダムな配置ではなく、ノードを定義された軸(axes)上に整然と並べるため、ネットワーク全体の構造を比較的理解しやすく表現できるのが特徴です。複雑なグラフ構造を「秩序立てて」見るために設計された可視化手法といえます。

歴史的経緯
ハイブ・プロットは2010年代初頭に Martin Krzywinski によって提案されました。彼はゲノムデータや生物学的ネットワークの視覚化を専門とし、既存のネットワークグラフ(ノードリンク図)がノードの位置に意味を持たないという課題を解決するためにこの手法を開発しました。彼の発表した論文 “Visualizing Networks with Hive Plots” (Krzywinski, 2012) によって広く知られるようになり、ネットワーク科学やバイオインフォマティクス分野で注目を集めました。
データ構造
ハイブ・プロットの入力データは、一般的なネットワークデータと同様に「ノード(頂点)」と「エッジ(辺)」から成ります。
ノードには数値的属性(例:次数、クラスタID、カテゴリなど)を持たせ、それをもとに各ノードをどの軸に配置するかを定義します。軸上の位置は連続値として表現され、各ノードが属する軸間でエッジが描かれます。
軸は通常、3〜4本の放射状の線として配置されます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ノード | 属性値をもつデータ項目 |
| エッジ | ノード間の関係性 |
| 軸(axes) | 属性のルールに基づく並びの基準 |
| 位置 | 軸上の相対的な値または順位 |
目的
ハイブ・プロットの主目的は、複雑なネットワークを「構造的に比較可能」な形で表すことです。ランダムなノード配置を避け、同一ルールで複数ネットワークを可視化することで、構造の差異を定量的に把握できます。 とくに生物ネットワークや社会ネットワークの構造比較、モジュール性の検証、階層的関係の分析などに適しています。
Hive Plotの発想は、「美しさ」ではなく「比較可能性」を目的としたネットワーク可視化にあります。力学モデルに依存したレイアウトはノードの初期条件やパラメータによって結果が大きく変わりますが、Hive Plotは 数値的ルールに基づく再現可能な配置 を可能にします。
この設計思想により、
- 異なるネットワーク間の比較(例:E. coli と Yeast の相互作用構造)
- 同一ネットワーク内での属性ごとの視点比較(例:次数 vs クラスタ係数)
が容易になります。
さらに、Hive Plotは BioFabric などの後続技術にも影響を与え、ネットワーク構造を線ではなく「秩序ある構成要素」として再構築する流れを生みました。
ユースケース
- バイオインフォマティクス(遺伝子間相互作用ネットワーク)
- ソーシャルネットワークの階層構造可視化
- システム構成要素間の関係図
- 企業間取引ネットワークや物流ネットワークの分析
- ソフトウェアモジュール依存関係の可視化
特徴
- ノード位置に明確な意味を持たせられる(再現性のある配置)
- 構造比較に適する(異なるネットワークでも同じ配置ルール)
- 見た目の美しさよりも構造理解を重視
- 軸の数・配置ルールをカスタマイズできる柔軟性
チャートの見方

中心から放射状に伸びた軸の上にノードが並び、それぞれの軸は異なる属性を表します。軸間を結ぶ線(エッジ)は、ノード間の関係を示します。
たとえば、軸A=入力、軸B=中間ノード、軸C=出力と設定すれば、情報の流れを可視化できます。 ノードの色・サイズを別属性で表現することも可能で、より多次元的な情報表示が可能です。
| 図要素 | 意味 | 読み取り方 |
|---|---|---|
| 軸(Axis) | ノードを配置する基準となる指標軸(例:次数、クラスタ係数、中心性など) | 各軸は1つの特性を示す。例えば、上軸は「高次数ノード」、左軸は「低クラスタ係数」など。 |
| ノード(Node) | 個々の要素(遺伝子、サーバー、ユーザーなど) | 軸上の位置が特性値に対応。外側ほど値が大きい場合が多い。 |
| エッジ(Edge) | ノード間の関係(相互作用、通信、共発現など) | 軸を跨いで接続し、関係の強さや方向性を示す。 |
| 色(Color) | 特定の属性やモジュールを区別 | 同系色は同じクラスタやサブネットを示す場合が多い。 |
| 正規化/絶対(Normalized / Absolute) | スケール調整の違い | 正規化図は比較分析、絶対図は全体構造の把握に向く。 |
たとえば、E. coli や Linux のネットワーク図では、「IN/OUT/IN-OUT」の3軸構成により、入力中心ノード・出力中心ノード・双方向ノードが明確に分けられています。
また「Hive Plot Matrix」では、軸に異なる構造指標を割り当て、マトリクス的に比較することで、ネットワーク間の特徴差を定量的に比較することができます。
デザイン上の注意点
- 軸数が多すぎると可読性が低下します(3〜4軸が推奨)
- ノードの重なりを避けるためのスケーリング調整が必要です
- エッジの透明度・色分けで交差を抑える工夫が求められます
- 軸の意味づけを凡例や注釈で明示することが重要です
応用例
ハイブ・プロットは、単一ネットワークの構造理解だけでなく、比較・進化・異常検知の文脈にも応用できます。たとえば、ある生物種の遺伝子ネットワークと別種のものを同じルールで可視化し、構造上の差異を比較する、といった分析が行われています。また、企業間関係図などでも、部門間の関係の強弱を表す際に利用されています。
代替例
| 手法 | 特徴 | 配置原理 |
|---|---|---|
| Chord Diagram(コード・ダイアグラム) | 円環状でノード間の接続を示す | 円周配置 |
| Arc Diagram(アーク・ダイアグラム) | 直線上にノードを並べ、関係を弧で表す | 線形配置 |
| Network Graph(ネットワークグラフ) | ノード位置に意味を持たない | 力学的配置 |
まとめ
ハイブ・プロットは、ネットワーク構造を「再現性あるルール」で配置し、混沌としたネットワークの秩序を見いだす可視化手法です。
ノードやエッジの位置が 意味をもつ ことにより、従来のヘアボール的な混沌を超え、定量的で再現可能な構造分析を可能にしました。科学研究やソフトウェア解析、社会ネットワークなど、多様な分野で応用が進んでいます。
見た目の複雑さに反して、定義されたルールに基づく構造比較が容易であるため、科学研究や情報システム分野で高い有用性を持ちます。
